貝殻

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「波音に耳を澄ませて」

波音に耳を澄ませて、瞳を閉じる。
そのまま、ゆっくりと砂浜を歩く。
左耳から聞こえる波の音が、何故かそんなに心地のよいものではなかった。早く立ち去ればいいのだろうが、これまた何故かそんな気分にもなれない。
夏の、黄昏時を少し過ぎた頃の薄暗い色を纏う空気、特にその時の海は昔から好きだ。いろんな感情が頭の中でせめぎ合って、どうしようもなくなる感覚になる。
今が、それ。
たまらず、嗚咽を漏らす。
溢れた涙は、砂に染み込んでなくなる。
波の音以外、何も聞こえない。
波の音以外、何もいらない。
だからただ、ここでいつまでも耳を澄ましていたいのだ。

7/5/2025, 2:50:09 PM