「ひとりきり」
朝、昼、夜。ずうっと、ひとりきり。友人といても、笑っていても、泣いていても。そんなことには、もう慣れたけれど。けれど、やっぱり寂しいもので、誰かといたくて、いたくなくて。それを繰り返してばかりなのだ。
「波音に耳を澄ませて」
波音に耳を澄ませて、瞳を閉じる。
そのまま、ゆっくりと砂浜を歩く。
左耳から聞こえる波の音が、何故かそんなに心地のよいものではなかった。早く立ち去ればいいのだろうが、これまた何故かそんな気分にもなれない。
夏の、黄昏時を少し過ぎた頃の薄暗い色を纏う空気、特にその時の海は昔から好きだ。いろんな感情が頭の中でせめぎ合って、どうしようもなくなる感覚になる。
今が、それ。
たまらず、嗚咽を漏らす。
溢れた涙は、砂に染み込んでなくなる。
波の音以外、何も聞こえない。
波の音以外、何もいらない。
だからただ、ここでいつまでも耳を澄ましていたいのだ。
「青い風」
あの人は夏に吹く風を、「青い風」だと言った。
その時は理解しようともしなかったが、今なら分かる気がする。
あの時、夏の昼間の風は青い風。
昨日、夏の黄昏時の風は、薄暗く灰色の混ざった青い風。
今、夏の夜の風は、黒色にほんの少し赤色が混ざった風。
その風が頬を撫でる。思わず、左手でも頬を撫でる。
おや、色のついた風は液体として触れられるのか。
その身を持って教えてくれたあの人に、いや、この人に感謝しなければ。
「遠くへ行きたい」
どこか、遠くへ行きたい。
そんな陳腐な台詞を口にしてしまうのは恥ずかしいから、ふ、と息を短く吐き出すにとどめる。
こんな気持ちになってしまうのは、初めてではなかったはずだ。
ふとした時に思い出すあの頃。遠くに行っても、決して消えることのないであろう、傷。
はあ、と今度は大きく息を吐く。遠くに行けても、何も変わらない。
あの、吐き気が込み上げる男の下品なそれの味も、唯一の存在と言ってもよかった幼馴染からの裏切りと嘲笑の味も、何も変わらないというのに。
それでも、どうしようもなく、遠くへ行きたい。
そう、変わらないのなら、せめて。
「クリスタル」
クリスタル、とはどうやら水晶のことらしい。
洋名か和名か、ただそれだけの違いのようだ。
だが、やはりクリスタルと聞くとギラギラと輝く宝石を想像してしまうし、水晶と聞くとどこまでも透明で、時に怪しげな雰囲気を醸し出す丸いものを想像してしまう。
言葉の響きとしても、水晶の方が好きだ。
すいしょう、と口に出してみる。
すると、頭の中と心臓に風が通り抜ける感覚がする。
ぼんやりとしていた頭が、澄み渡る。
クリスタル。
大きなそれを買ってみたのだとあの人に呼ばれた昨日の午後。
自身の右手を見れば、もはや透明とは言い難い、少し欠けたクリスタル。
自分はどうやら、透明より黒々とした赤色の方が好きらしかった。