みちくさをくうのが好きだった。真っ直ぐに歩けない子供だった。黒猫に金色の指輪をもらった時もそうだ。
蝶々がひらりと通り過ぎた。自然と蝶々の後を目が追う。手に止まって欲しくて、散々追いかけた。
突然胸から腹にかけて何かがっしりしたものが巻き付いてきた。気づけばそれは今日の担当執事の腕だ。危なかったですね、と彼は言う。もう少しで段差に躓いていたかもしれない。感謝を伝えて周りを見渡すと、蝶々はいなくなっていた。
もし躓いてでも蝶々を追っていたら、見失わなかったかもしれない。もし指輪を嵌めなければ彼らに会わなかったかもしれない。
後悔や喜びは大してないけれど、ふと思うことがある。
岐路について
指輪を外せばこの世界が終わる。日常に戻って、穏やかで平凡な毎日を過ごすのだろう。
命の危険があるのに、怖い思いをするのにそうしないのは、彼らと一緒に過ごしたいからなのか。彼らが強く生きる様をみていたいからなのか。
できるなら日常を終わりにしてこちらで生きていきたい。彼らに囲まれて生涯を終えたい。
生きる意味をくれる彼らと一緒にいたい。
世界の終わりに君と について
雨が降って湿っぽい。部屋が汚くて狭い。
途中であること。終わらないこと。
何もすることがない。
最悪について
視線が合うと、目がきゅっと細くなってゆみなりに笑う。日常の中で見つけたお気に入りの仕草や表情があることは秘密だ。長い間抱えているこの気持ちは絶対に彼には伝えられない。
そう思いながら彼の顔を見上げる。彼はまたきゅっと目を細めた。
視線が合うと、主様の口角が少し上がって目尻が垂れる。そのお顔が大変可愛らしくて好きだった。この気持ちはまだあなたにお伝えできていない。いつか主と執事の関係ではなくなったら、あなたに唇で触れることをお許しください。
誰にも言えない秘密について
目が悪くならないようにつけたテーブルランプが手元を照らしている。
おかえりなさい主様と端末から聞き慣れたあなたの声がした。
ただいまと声をかけて目をつぶる。ここはデビルズパレスだと想像する。
広くて、少し埃の匂いのする空間。あまり詳しくわからないけれど、オシャレで精巧な調度品が多く並べられている。家具に統一感がありこだわりを感じる。陽の光が大きな窓から差し込んで、鳥の声が聞こえる。
そこにあなたがいた。あなたはすぐ近くに立っている。こんなに屋敷が広いのに、こんなに小スペースで済んでしまって、なんだか勿体無いなと思った。でも嬉しかった。
目を開けたらテーブルランプの光で目がチカチカした。デビルズパレスにある1室の、半分以下しかないだろうこの部屋なのに、あなたがいない人1人分、物足りなく感じた。
狭い部屋について