私がこの世から居なくなった時
あなたが涙をこらえている顔を見て
「下唇出てる。子供の時の泣き顔と一緒。」と思うのかしら。
泣き疲れて眠った顔を見て
「唇が少し開いている。子供の時の寝顔と一緒。」と思うのかしら。
私が眠っている祭壇の前で正座して座っている姿をみて
「アンパンのテレビを見ている姿と一緒。」と思うのかしら。
どんなに大人になってもあの頃の
あなたを見つけてしまう。
「今日、とあちゃんと‥たくさん遊んだの。」と保育園の帰り道子供か言う。
「なにして、遊んだの?」と答える。
「うんとね‥。お絵描きして‥絵描いて‥
お歌歌って‥‥いっばぁーいお話したの。」
つないでない腕を回して、いっぱいを母に伝えてくれる。
子供にとって何で遊んだ事よりも
大好きなお友達と一緒に遊んだ事の方が大切だようだ。
家路につきながら、ゆっくりと子供の話しを聞ける時。
子供にとっては1日の中で母を独り占めできる時。
懐かしい思い出。
この間、子供が声を何度も掛けてもお風呂に入ろうとしないので
「歌うか、踊るか、お風呂に入るか
さぁ、どれにするの?」とふざけて
言ったら1分後くらいに
「na na na な な なめっこ〜‥🎵」
と、弱々しい歌声が聞こえてきた。
歌うんかいっ。そして微妙に古い。
1番を歌い終わるの待ってから
「会社の人がスマホでゲームしてたの
思い出したわ」と言うと
どんなゲームだったか詳しく説明し出した。一通りの説明を終わると
「じゃ、お風呂行ってくる」と
やり切った感をだしてお風呂に向かう子供を見送った。
よく分からないが、それが子供の
“お風呂入るスイッチ”だったらしい‥。
「お母さん見てて」と子供がいう。
「見てるよ」と返事をする。
雲一つもない秋晴れの今日。
子供と自転車に乗って少し遠くの公園にきた。
その公園には、ロープで作られた
ジャングルがある。子供はジャングルに
わき目も振らず走って行く。高さは5メートル位あって、子供は怖さも知らずグイグイ登って行く。親は下からハラハラ、ドキドキで見上げている。
「お母さ〜ん、見てる?」
「見てるよ〜。」
グングン登って頂上まで辿り着いた。
下にいる母を確認して、にっこり笑顔で
紅葉の様な小さな手をヒラヒラと振る。
青い空とジャングルと子供の笑顔。
(また、この公園に一緒に来よう)
「気をつけて降りて来てねー」と
声を掛けてながらそう思った。
初めて父の涙を見たのは
祖母がこの世からいなくなった時。
祖父は私が生まれるずっと前
父が中学生の時に亡くなったらしい。
それから祖母は女手一つで
4人の男の子を育てた。
長男だった父は、近くで祖母の苦労や
生き方を身近に見てきていたのだろう。
時と共に家族の形が変わり変化しても
一緒に暮らしていた、祖母と父。
年老いた祖母の入院が長く多くなったが、あまりお見舞いには来なかった父。「男の人ってそんなものよ」と母は
薄く笑っていた。
そして、とうとう病院で祖母とお別れの時、赤い顔と赤い目をして父は
はらはらと泣いていた。
父が泣いているのを見たのは
後にも先にも、その時だけだ。