子どもの頃は未来なんてなかった。
ただ、今この目の前で起きていることが、永遠に続くんだと思っていた。
これからも、ずっと。
父は酔って怒鳴り散らして兄に暴力を振るう。
兄は泣きながら謝って余計に父を怒らせて殴られ続ける。
お酒をゆっくり飲みながら止めもせず、三時間以上続く騒ぎをずっと眺めているか、居間のテーブルに移って持ち帰り仕事をやっているか、母はそんな感じ。
わたしは兄を庇って虚しい努力を繰り返す。
子ども時代の時間はゆっくり過ぎる。
永遠にこの地獄が終わらないと、当時は信じていた。
【これからも、ずっと】
今は山奥に住んでいるため、沈む夕日を見ない。
夕日が傾くと、山々に隠されて、天使の梯子という光の現象が見えて、山の高さだけ早く周囲が暗くなってしまう。
昔は夕日は海に沈むものだった。太平洋に近かったので、里山の上から眺めることが出来た。実家は南関東なので相模湾と東京湾が見渡せ、富士山も千葉の陸地も、都心のビル街も空気が良ければ見えた。
多分あちらでは7時頃に沈むであろう日が、山に隠れるのは恐らく5時前後。山あいの日中は短い。
【沈む夕日】
わたしが初バイトの初任給で買ったのは、本物そっくりな黒猫のぬいぐるみ。大きさもシルエットも本物の猫みたいで、つぶらな瞳が可愛くて、「うきゅ」と名づけた。こう、首の後ろをつまんで、小首を傾げさせて、「うきゅ?」って言わせるの(わたしが声をあてるのだが)が好きだ。
そんなうきゅだが、購入初夜は邪悪な気配だった。一緒に寝て起きたら毒気が抜けて、可愛い「うきゅ」になった。
そんな「うきゅ」の目を当時の友人はまともに見られなかった。悲鳴をあげて逃げ惑い、目を隠して顔を背けて必死だった。まあ友人も時と共に慣れていくのだが、何故そんなに「うきゅ」が友人を動揺させたのかは謎のままである。
【君の目を見つめると】
つかめそうないっぱいの星空に手を伸ばす。ゆっくりと動いているのは人工衛星だ。天の川がはっきりと見えて、星座なんてかき消してしまっている。
この景色をキミに見せたかった。キミは結局、退院できずに天使になっちゃったけど。僕が肺炎で数日入院した時に仲良くなったキミ。病院から出たことがないって言っていたね。院内の移動は車椅子だったね。
つうっと星が流れた。次また次と流れ星。お別れだねってキミが流した涙みたいだ。そんな風に思った。
見せたかったな、この空を。急いで飛んでいき過ぎなんだよ。まったく。
【星空の下で】
何も足さない、何も引かない。そんなCMがあった。お酒のCMだったと思う。そうだ、サントリーウイスキー山崎だ。
わたしの飲み方がまさにそうで、ウイスキーやリキュール類をストレートで飲む。水も氷も入れない。そう、何も引かないし何も足さないのだ。ウイスキーの場合イギリスではニートと言われる飲み方らしい。
ストレートというより「生(き)で飲む」という言い方をすることが多いが、通じないことも多い。大概酒に強いと思われる。強くはない。酔うほど飲まないだけである。
【それでいい】