あふれんばかりの星を、両手にすくって、キラキラした目で見つめている。小さな、ふくふくした両手。まだ幼いおかっぱの頭。僕の妹。
妹の手には色鮮やかな星々。金平糖。大粒のものから、小さなものまで、たっぷりと揃っている。
「貰っちゃっていいの? おじちゃん!」
妹に、馴染みの近所のおばさんが、ニコニコしながら良いよと微笑んでくれる。そのままがっつくのかなと見ていたら、妹は器用に片手に金平糖を寄せて、一粒ずつつまんで口に運び出した。
「にいやもいる? どうじょ!」
思わず笑みが溢れる。僕は小さな、青い星を選んだ。
【星が溢れる】
「ねえ?」
僕は施設のベッドに横たわる妻の顔を見る。顔中に刻み込まれたシワは二人で歩んできた年月だ。だけど彼女は僕を全く覚えていない。
「あなたはどうして、見も知らぬわたしにやさしくしてくださるの」
穏やかな笑み。妻には僕が見知らぬ他人に見えているのだ。ぎゅっとハンカチを握りしめて、笑顔を作った。だけどどんな嘘をついたらいいかわからない。
黙っていると妻は僕の顔をそうっと撫でて、「有難う」と微笑んで、そして目を閉じた。最期の息は静かで長かった。僕は泣き崩れた。長年共に暮らした妻の冷たい手を強く強く握って。
【安らかな瞳】
わたしはCPTSD(複雑性PTSD)と診断されている。
具体的には聴覚反応でフラッシュバックが発生することが多い。
何か楽しみを見つけたとする。
「遊んでいて良いと思っているのか、このクズが。もっと人より努力しろ!」
つらくて休みたいなと思ったら。
「ふざけるな、怠け病だ! 他の人のように、はつらつとしろ! 動け!」
常に隣で天国の父が囁いている(むしろ怒鳴っている)。ずっとずっと、この呪縛は抜けない。
【ずっと隣で】
わたしは二十歳で成人喘息グレード四を宣告された上に親から入院を禁止されたため、点滴通院の毎日で、大学に二年しかまともに通えていない。四大なのにである。
なので、数年前あるところで心理学の講義を受けることが出来てとても嬉しかった。もっと知りたいと思ったし、親との生育歴で歪んでしまった自分のメンタルを立て直すヒントにもなるかと期待した。
しかし講師のかたにメンヘラと嫌われてしまいブロックされたので、もう講義には行けない。わたしがCPTSDや愛着障害、解離性障害、転換性障害を患ったのは、わたしが望んだことではないのだが。どうやら患者自身は、勉強することもよろしくないらしい。
【もっと知りたい】
わたしが欲しかったものかも知れない。
世にいう「平穏な日常」。
でも、人付き合いを禁じられたわたしには、よそのおうちを見ることは出来ない。
わたしのおうちでは、父が食事中に酔って兄を怒鳴ったり、殴ったりして、見て見ぬふりをする母が黄ばんで傷んだご飯を出してくるのが、日常だった。
父が酔ってそのまま自室にこもってしまう日が、一番平穏といえば平穏。大概何ヶ月も口をきいてくれなくなるけれど。
その場合、教員を勤めていた母が、テストを作らせたり、採点させたりしてくるけれど、傷つけられる訳ではないから、やっぱり、平穏......なのかな。
【平穏な日常】