カラスが落ちていた。
僕はカラスってとっても綺麗な鳥だと思っている。
真っ黒で、声はうるさいけれど、艶やかで賢くて。
でも、ゴミを漁るからか、皆に嫌われている。
いつだか、カラスを飼っている人に会った。
ペットのカラスは良く躾けられていて、憧れだった。
野鳥ではなくペット用に輸入されたカラスらしい。
落ちていたのは野鳥のカラスだ。
車に撥ねられたのか、ぐったりしている。
ハンカチ越しに持ち上げて、連れ帰った。
獣医さんに診せて、治療してあげたいと思った。
飼えなくてもいいから。
畑で野焼きをしていた親は、僕の腕のカラスを見て嫌な顔をした。
まだ息があるのに、捨てなさいと怒る。
可哀想だ、助けたいと言ったら、僕から取り上げた。
そしてカラスを、ハンカチごと火に放り込んだ。
火は半死半生のカラスを覆い尽くした。
燃えて揺れる黒い羽根が目に焼き付く。
それも涙でにじんで、やがて何も見えなくなった。
【揺れる羽根】
鍵のかかる箱に、日記を入れていた。
それが小さかった頃の、わたしの秘密。
アンネ・フランクの日記に影響されて、居もしない親友に宛てて日々を綴っていた。
毎日、お酒を飲んで、兄を怒鳴り殴る父。
毎日毎日、わたしの目の前で、3時間は続く。
母は素知らぬ顔で部屋から消えている。
わたしは兄が殴られなかった日を記録しようとして、1日もないことに気がついた。
何年続いただろう。本当に1日も途切れなかった。
自分が殴られるより恐ろしかった。
目の前で兄が暴力を振るわれ続けるのは。
きょうはつらかったけれど、あしたはきっときょうよりひどいから、きょうはまだ、しあわせ。
呪文のように同じ言葉が並ぶ日記。
暴力が兄からわたしに向いた頃、わたしは、秘密の箱ごと、日記帳を庭で焼いた。
【秘密の箱】
期間によるよね。
友の問いに僕は答えた。
少しの間、リゾートで行くなら、気候にもよるけれど、水着や着替えや道具を持って、のんびり泳いだり、釣りをしたり、本を読んで過ごしたいし。
長期間帰れない、ロビンソン・クルーソーのような状況なら、頼れる友を連れて行って、一緒に無事に帰りたいよね。
その前に、衛星通信ができない環境に居られるだろうか? 具体的には、スマホなしで生活できるのかな。
料理も暮らしもみんな今では検索しちゃうもんね。
僕の答えに友は笑った。
お前は現実主義だなあ、と。
もっと夢のような回答を期待していたようだった。
【無人島に行くならば】
昨日までの暑さが嘘のようだ。
今日は僕は毛布にくるまっている。
洗って干して、冬に備えるはずだった毛布。
秋は暦の上に足跡だけ残して去ってしまった。
清々しい空、心地よい風が恋しい。
天高く馬肥ゆる秋。
秋の日はつるべ落とし。
そんな言い回しも今や聞かなくなった。
この世界から、秋が消えていく。
さあっと風が季節を撫でるように、夏が過ぎて冬が顔を出す。
【秋風】
ばさっと音がして、誰も触れていないのに、本棚から本が落ちた。
あれ、入れ方まずかったのかな?
最初はそう安易に思った僕だが、落ちた本を見て息を呑んだ。
アルバムだった。
落ちた衝撃で開いている。
そこには、この世にはもういないじいちゃんの笑顔。
じいちゃんの写真が、おさまっていた。
じいちゃんが何か言いたいのかな?
オカルトは信じないけれど、何となくそう感じた。
僕はアルバムを直して本棚に戻した。
コンビニにいこうと思って羽織った上着を脱ぐ。
今夜はいいや。出かける気が失せていた。
翌朝、そのコンビニに深夜、トラックが突っ込んだというニュースが入ってきた。
じいちゃん、ありがとう。
【予感】