récit

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5/22/2025, 2:45:07 PM

彼女が、鏡に映る自分を見てリップを塗りながら、ふと言った。
「ねぇ、なりたい自分って、完璧を目指さない方が良いよね?」

「ふーん、そうなの?なんで?」と僕は聞いた。

「だって、完璧って常にそのままの状態で固定されてしまうってことだから。なりたい自分は、いつもアップデートが求められるものだと思うの。いつだって昨日の自分とは違う自分になりたいわ」

「なるほどね」
僕は頷きながら、女の子って、やっぱり考えが深くて、でも時に面倒な存在だなと思った。

「昨日と違う私」

5/21/2025, 11:38:13 PM

彼女との出会いは、大学のワンダーフォーゲル部だった。大学時代は勉学よりワンダーフォーゲルに明け暮れていた。

そんな登山の2日目の朝はいつも、山の頂から差し込む光に、思わず僕たちは息をのんだものだった。
生まれたての朝日が、東の空から世界を金色に染め上げ輝いていて、すべてが眩しく、世界も未来も何もかもが僕たちのものかと思えた。
あのとき、僕たちは20歳で高鳴る恋をしてた。

でも社会に出た僕たちは、もう20歳ではない。
世界が自分たちだけで回っていないことを知ってしまった。金色の光だけでは語れない、複雑な現実も見えてくる。日々の中で次第に、かつての輝きが薄れていく。

心を洗いたくなって、僕は彼女を山登りに誘った。
また朝日を見に行こう。

二人で見た東の空の日の出は、あの頃と同じくやはり心を打つ美しさだった。
そして、ふと西の空に目をやると、ぼんやりと白く月が浮かんでいる。月を見て、なんだか忘れかけていた恋心を静かに思い出した。

僕たちは、東も西も同じ方向を見つめ、これからのことも信じてみようと思った。

「Sunrise 」

5/20/2025, 2:02:48 PM

空に溶けていく。
いつまで経っても暮れない時の中、紅色の空が広がっている。
君との恋も、いつまでも暮れないものだったら良かったのに、君は遠く月の海へと帰ってしまった。
だから僕は、君を探すため紅色の鳥になったんだ。
ひたすら飛び続けるけど、ここには夜が来ないから、月の光は僕の目には映らない。
君を見つけることができなくて、切なさだけが紅の空に渦巻いている。
僕は月を想い、ただ待ち続けるしかないんだ。

「空に溶ける」
☆"暮れない"と"紅(くれない)"の掛けことば

5/18/2025, 11:46:46 PM

小学校の卒業式の日、20年後の再会を約束し、タイムカプセルに手紙を入れた。
あれから時は経ち忘れていた頃に同窓会の連絡が来た。
みんなとの再会、思い出の小学校、そしてタイムカプセルの中の手紙。何を書いたんだっけ。
ワクワクしながら埋めた場所にみんなで向かった。
缶を開けると、20年前の自分の手紙が現れた。
そこには
「20年まって」とだけ書かれていた。
なんだ、これ。
シンプルすぎるじゃん。
当時の僕は、いったい何を思っていたのかな。
きっと、その時は意味がなかったのだろう。
でもその答えは、この20年を振り返って見つけろということなのかもしれない。

「まって」

5/17/2025, 11:28:31 PM

僕は藍。
君は、僕の花の色を知っているかい。僕は、純白に咲くことだって出来た。やわらかな風に吹かれて、無邪気に揺れていたかもしれないんだ。でもその白さを纏う前に摘まれて、僕は君の藍染の帽子になることが出来た。

おかげで、ただ風に揺られてだけでなく、君が連れていってくれる未知の世界に幸せを感じている。
君の青になってから、空を仰ぐたびそう思う。
これからも、まだ知らない新しい地平線を見てみたいよ。
僕は、青空より深い藍。

「まだ知らない世界」

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