そのむかし、フラワーという言葉は、植物全体を指していたんだ。
時が経って人々は南に北に旅立つと、南に住み、美と愛を求める人々は、植物の花の部分をフラワーflowerと呼ぶようになった。一方、北に移動した人々は、植物の役割に食べものと幸福を求めて穀物をフラワーflourと呼んだ。
言葉の変遷は、それぞれの心の風景を映し出していくのさ。
「フラワー」
「ねえ、ママ、あのグルグルのお日さまみたいな木は、なあに?」
ペターポは、目の前の不思議な木を見て、ママに尋ねた。
「ペターポ、あれはね、あなたの将来の地図よ。あの木の枝を見てごらんなさい。たくさんの枝が伸びているでしょう。ペターポが大きくなって、色々な経験を積んで、夢を抱くようになると、自然と新しいイメージが湧いてくるの。そのとき、枝はどんどん分かれて、無数の道ができていくのよ。あの木は、あなたの人生がどれだけ多様で、豊かなものになっていくかを示しているの」
それを聞いたペターポは、なんだかよく分からなかったけど、その枝を広げて、自分の新しい地図を育てていこうと思った。
「新しい地図」
西鳩シェフは、高級レストラン「fête d’ étoileフェデトワール」の料理長として目を見張るような豪華な料理を作り続けている。その料理は芸術作品のように美しく、魔法のように熟成された高級ワインと共に、客単価8万円を超えることもしばしば。
そんな華やかな西鳩シェフも、自宅のキッチンでは高級食材を使うことない。
近くのスーパーから手頃な価格のビーフを選ぶ。
そして、どの食材にも心を込め、焼き方やソースにシンプルながらも独自の工夫を凝らし、素敵な一皿を作り上げる。
心温まるご馳走だ。キッチンには彼の料理愛が広がっている。
シェフの家族や友人を囲む自宅食卓で、彼の家庭料理からみんなの嬉しそうな笑顔が生まれる。
西鳩シェフは、料理を喜ぶ人たちの姿を眺めることが大好きなのだ。
「好きだよ」
色見本の「桜色」は本当に淡い。イメージするパステルピンクは「薄桜」って名前。
アンミカさんが「白って200色あんねん」と言うように、色見本のカラーコードでは白が200色あるらしい。
今年の春夏のトレンドカラーのひとつミルキーホワイトは、真っ白より少し黄色味があり、オフホワイトよりは白い。
そんな微妙な色の違いは気にせず、デザインが好みな白シャツを買った。真っ白より柔らかい印象。
ミルキーホワイトなんて表現はあまり使わないけど、要は牛乳の色ってことね。
「桜」
窓辺の賢い猫は、神秘的な緑色の瞳を眠るようにゆっくりと閉じる。
すると心の目が開くんだってさ。
たとえば、豪華な煌びやかに輝く世界は、実は薄汚いドロリとした落とし穴のような場所として映る。
キラキラした飾り付けの背後には、誰かの手垢や、ぺらぺらの本音が見え隠れしている。
一方、素朴で目立たない景色からは、どっしりとした誠実さに満ちた美しさが見えてくる。
見落とされがちな道端の草花に、厳格な哲学のような深いメッセージがあるかのように感じるんだ。
緑色の目の猫は、みんなが気付かない秘密を知っている賢者なのさ。
「瞳をとじて」