「お疲れ、今日もありがとう、ワンワン」
と帰宅した僕の足元に君は飛びついた。
その動作がたまらなく可愛くて、外の喧騒から解放され肩の力がスッと抜ける。
僕も「ありがとう」
と君のやわらかいモフモフな毛並みの背中を撫でるのだ。
「ありがとう」
12時の鐘が響く。
魔法が解け、華やかなドレスは消えても、君はただ、君自身へと戻るだけだ。
不安定なガラスの靴で背伸びなんてちょっとダサい。
飾らないそのままの君がいいのさ。
眠りに落ちた君に、僕はそっとこの思い伝えたい。
「そっと伝えたい」
かつて遥かなるユーラシャー国にロセイタンという名の男がいた。
彼は未来を見ることができるという特異な能力を持っていた。その力は五千年に一度現れるか否かの奇跡であった。
しかし残念なことに、彼は絶望的に記憶力が悪かった。
そのため、彼が見た未来のビジョンをほとんど語ることが叶わなかった。
それでも、彼の能力はスピ好きな人々の間で語り草となった。
しかしながら、一般には眉唾話として語られた。
「未来の記憶」
女の子がチョコ味のポンデリングを手に取り、彼氏にこう言った。
「これは私のココロ。ふわふわでもっちもちの心なの」
思わず彼氏は訊ねた。
「おいおい、心の真ん中は空っぽなのか?」
女の子はにっこりしてあざとく返した。
「それはね、あなたが私の心を射抜いた証なの」
その言葉に彼氏はとても感激して、奮発してハート型のダイヤのペンダントを彼女にプレゼントした。
「ココロ」
君が僕のとなりで2月の夜空を見上げていると、濃紺の空に一筋の光がきらめいた。
「あ、流れ星」
と君は呟く。
瞬く光は君の意識と静かに溶け合い、君の瞳にも星が宿る。
宇宙のふたつの波動が整ったみたいだ。
「願い事、何かした?」
君は僕に聞く。
「まあね」
と、僕はたいして気のないふりをして返事をする。
本当は、僕は君の綺麗な瞳がいつまでも輝き続けることを願った。
古い光はもう見ることが出来ないけど、君の瞳には思いを届ける力があると思ったんだ。
「星に願って」