学校の廊下で彼女が近づいてきて一枚の紙片を僕に差し出した。
「成瀬君、私の名刺よ」と彼女は笑顔で言って立ち去っていった。
手に取った名刺には"うさぎの後ろ足"という文字とインスタのQRコードだけが印刷されている。
入学したばかりで僕はまだ彼女の名前を知らなかった。
でも彼女は僕の名前を知っている。
僕は顔が熱くなるのを感じた。
何気ないふりをしようにも身体のバランスを失ってるような感覚だった。
右手と右足が同時に前に出る歩き方になりそうだった。
題「何気ないふり」
僕と彼女は映画の話をしてたんだ。
彼女はハッピーエンドの映画が好きって言う。
僕はハッピーエンディングの映画はスッキリしてイイよねって相槌を打つ。
そしたら彼女が頬を膨らませてこう言うんだ。
「わざわざ和製英語を直して英語を使わなくてもいいのよ。ここは日本なんだからハッピーエンドっていう表現でいいの。そういうのめんどくさいから」
僕は「ごめん」と言った。
僕はだって日本語を学んでるアメリカ人だからついそんな風に言っちゃうんだ。
めんどくさいのは僕なのか、そういう指摘をする彼女なのか、よくわからないけど、めんどくさくならように謝っちゃうんだ。
題「ハッピーエンド」
☆ホンヤク風ソウサクデス
ルーブルのモナリザは
見た人々からの賞賛によりさらに美となって輝く。
彼女はどの角度へも眼差しを届け人々に微笑み返す。
題「見つめられると」
河川敷をサクラソウが美しく彩る。
春の訪れを告げるように風に花びらがそよいでいる。
僕は毎朝この場所で自転車で駆ける新しい制服姿の女の子と出会う。
その朝、彼女は笑顔でおはようと僕に挨拶をくれた。
彼女の笑みは風に乗った花びらみたいだ。
僕の心は宙に浮いて気付いたら恋をしていた。
題「My heart 」
月と地球はお互い羨望の的。
月は地球の賑やかさに刺激受けて少し派手になりたいと言っている。
地球は月の静けさに癒やされてもっとのんびりしたいと思ってる。
ないものねだりの典型的例だ。
みんなの心の深いところに潜んでいる。
月を指差して指先ばかり見てると本質が見えない。
見た目や表面だけで判断すると隣の芝生の色が青く見える。
題「ないものねだり」