「幸せを履き違えてるんじゃないですか?」
彼の鋭い眼光が、私に向けられた。欲しいものに囲まれて、たくさんの友達がいて、非の打ち所がない恋人がいる。仕事も上手く行っている。今の私に不満など、あるはずがない。欲しいものは、全て手のなかにあるのだから。臆することなく、私は笑ってみせた。
「なに言ってるの?」
「あなた、幸せを履き違えてるんじゃないですか、と言ったんですよ」
「それはさっき聞いたよ」
「自慢話のつもりですか?」
彼は攻撃的な口調で言った。だんだんと苛立ちを隠すつもりはなくなってきているようだった。けれど、私はどこで彼の地雷を踏んだのかが分からなかった。彼の瞳の奥に宿る熱を、首を傾げてただただ曖昧に受け止めることしかできなかった。
「勝手に私の幸せを決めないでよ」
少し困って見せれば、彼はバツの悪そうに視線を外した。
「物があれば、あなたは幸せなんですか。たくさんあれば、人より優れていれば、あなたは満たされるんですか?」
彼の問いかけにグッと言葉をつまらせる。
何も言わない私に、ほら、と彼が追いうちをかける。
「周りの物や人で測っているような幸せなんて、自分が思い込みたいだけじゃないですか。そんなんで笑ってるあなたを見てると、イライラするんですよ」
呆然と、彼を見つめ返すことしかできなかった。彼の本心を聞いたところで、私はどうしたらいいんだろう。
「私は、あなたの言葉が聞きたいんです」
見透かしたように、彼が呟く。その瞬間、無意識のうちに自分の中にあった幸せという呪縛から、解放された気がした。
彼の頬がわずかに赤らむ。まるで告白じみた言い回しが彼らしくて、思わずふはっ、思いっきり吹き出した。
題 : 幸せとは 「アナタの言葉で聞かせて」
#胸の鼓動
電気を消して、布団に入って、目を閉じる。
視覚をシャットダウンすると、部屋の空気とか、外で走り回るバイクの音とか、新調したフレグランスの匂いとか、他の感覚器官が鋭くなった。
眠る直前までスマホを見ていたからか、脳の思考も活発化してしまった。その証拠にいろんなことが頭の中をぐるぐると渦巻いている。一日の行動をなぞるように、一人反省会。
苦しくなる気持ちを、深呼吸して落ち着かせた。
意識的に、呼吸を繰り返す。
吸って、吐いて、吸って、吐いて。
胸の鼓動を感じていると、独りなのに、心が少し大丈夫になる。
不安な夜もいつの間にか終わってて、朝日が昇る。
それの繰り返し。
#貝殻
砂浜で見つけた綺麗な貝殻。
あの人にあげたいな、って
思う気持ちは
きっと愛だ
いいな、って思ったもの
あの人に見せてあげたい。
こんなにも、素敵なものがあったこと
あの人にも教えてあげたい。
毒にも薬にもならないような、やさしい愛が好き。
#きらめき
日常のあちらこちらに潜むきらめき。
強くはない。存在感があるわけでもない。
キラキラしてるわけではなくて。
そっと、そこにあるような感じ。
何も言わないで、誰にも気付かれないのに、
素知らぬ顔で、ただ静かにそこにあるきらめき。
気付ついた瞬間、きらめきの欠片が輝き出す。
どんな小さな欠片だろうとも。
見つけてって叫ばなくても
色とりどりの宝石で飾らなくても
気付いている。
私のなかに、もうきらめきがあるって、
私は知っている。
書きたいのに、書けない。
上手く文章を書かなければ。読み返すたびになんだか気持ちが悪くて、結局全部消した。あーあ、また書けなかった。
せっかく書いたのに。
また、消しちゃった。