幸せ、とはなんだろうか。と偶に考える。
それはこの自分の中にある責任感にも似た罪悪感と、子の境地にいる自分への不満と呆れ。1度でも転んでしまえば皆が皆置いて言ってしまうという恐怖と絶望。
そんなのが続いていると、ふと自分は不幸なんじゃないかと思ってしまう。
祝福された幸せの桃姫さんと赤い髭のアイツも、自分たちなりの幸せを見つけた一生のライバルの緑の髭と菊姫さんも、それぞれ幸せなのだろう。
別に恋人が居ない兄貴も、自由で何も無い日々が幸せだと感じられる。
俺にだって思慕を抱いている人は一応いる。
ただ、居る世界が違いすぎるのだ。
彼女が星の子から慕われる母だとすれば、俺は醜くネズミ捕りの中で独り藻掻く小悪党。
彼女が綺麗なブロンズの髪と、翡翠のドレスを身に付けて、銀河のティアラを乗せたその姿は、まるで星のようで、そんな姿に見蕩れは焦がれて死んでしまう。
ピーチ城で開かれるお茶会。
そこで、あの人の話題を振られたが。
「あー、ロゼッタには他にいい人がいるよ。俺なんざ見ちゃくれない方がアイツは幸せだ」
当たり前のこと。
自分で言っといた癖に自分で傷つく。
黙って聞いていたおヒゲの皆様と姬サン達は、みんな呆れてそりゃそうだと共感してくれるだろう。
努力なんてしない。見返りは求めない。
だって、あの人には、俺はつり合わない─────
「君さぁ、バカじゃないの?」
そう赤の髭が頬杖をつきながら言って、それに釣られて次々に皆が口を開く。
紅茶を啜る音。
「マリオが言ってることは正しいわ。貴方、また逃げるつもりなの?」
桃姫は俺を問う。
クッキーを噛み砕く音。
「本当にだな。お前さんはロゼッタを悲しませてーのか?」
黄色はあの人の名前を出す。
「な……なんだよ、当たり前のこと言っただけじゃ……」
「当たり前じゃないよ!!!」
緑の髭が立ち上がる。テーブルが揺れる。
「ワルイージ、ロゼッタがなんでわざわざパーティーの時君の隣に座るのか分かるかい?」
「そうね、アンタが1人の時にロゼッタが丁度よく話しかけに行くのも分かるでしょう?」
緑と雛菊は問い詰める。
「は、いやいやそんなこと言われたって……」
「俺にゃつり合わねえってなあ……」
「つり合うとか関係ない!僕らだって一般人とプリンセスなんだぞ!何言ってるんだ!」
それは、アイツらが選ばれたスーパースターで、スーパーヒーローなんだから。
俺はなんだ?何も出来ないただの脇役だ。
「あ……あの、なんだか皆さんお喧嘩を……?」
丁度良く、ロゼッタが遅れてやってきた。
俺の隣は椅子がひとつ分空いている。
「さ、ワルイージ、やっちゃいなさい!」
桃姫さんは強引に俺をロゼッタの目の前に立たせた。ああ、ダメだ。俺じゃ、どうせ……
「……?あの、ワルイージさん……」
「っ、あ、ロゼッタ、よう……」
「、急で悪いけど、ちょっとバルコニーに来て欲しい……」
幸せとは、ここにある、小さな小さな愛の欠片。
{ 会いたい| }
たった四文字のメッセージをポコポコと打ってみた。ただ、その瞬間頭の中にありふれていた色々な気持ちが寄ってきて、きゅう、と胸を締め付ける。
ダメだダメだ。新年早々会いたいだなんて。
{ | }
1度全部消して、もう一度自分の考えを改める。会いたい、というのは迷惑になるからやめろ。そう自分に言い聞かせて、切り替えにと手をパンパンと叩く。部屋の中でパックンフラワーは新年だと言うのにも関わらずいつもと変わらずうねうねと楽しそうに踊っている。
手塩にかけて育てた薔薇も、いつもと同じように、変わらないように、綺麗に花瓶に佇んでいた。
──────ピコン。
通知の音。
{ 昨日というか、すぐ前に会ったばかりなのですが、帰りのついでに初詣に行こうと思うんです。星の子たちとも行きますが、2人で行きませんか? 迷惑なら断られて大丈夫です }
また、そうやって俺を喜ばせる。
[新年] ワルロゼ
「そんじゃ、良いお年を。星姫さん」
情けない。年越しまで一緒に居ませんか、だなんて心の中では一番最初からずっと思っていた癖に、それを言う時になるとそれとは真反対の言の葉が口から飛び出ていく。
ぽろぽろと外は粉雪が花びらのように舞っていた。星みたいだ、なんてうっとりと眺めていた彼女をぼんやりと微睡みの中で思い出す。
10時半。いつもより何倍も遅い彼女の帰りの時間。それに、今日は元旦の前日。けど、だからと言って彼女が育てている星の子達はそんなの関係無しに母を待っているだろう。中には夢の中の子もいるだろうが、躊躇して、真反対の事を言ってしまったのはその所為でもある。
ぱちくりと彼女が瞬きをする。
ああ、ごめんな。こんな弱虫な俺のせいで。
貴女の、今年の最後を奪う訳にはいかなかった。
「……私が、一緒に年越しまで居たいと言ったら?」
「……え、……あ……」
こんなこと、あっていいのだろうか。
良いお年を、で終わる筈だったその後悔は、あけましておめでとうで始まるという嬉しさに変わった。
「良いお年を」ワルロゼ