ふとした瞬間
(何してるかな…)
そう思った時、デスクに置いていたスマホが短く震えた
ロック画面を見た時、口角が上がった
『何してる?』
『LINEしようかなってスマホ持ったとこ』
『うわ、相思相愛やん笑笑』
『うざ笑』
ふとした瞬間にも自分を想ってくれるって幸せだなと実感した
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夜が明けた。
「あーあ、ボロッボロだな…」
「「師匠…」」
朝日を背負い現れた師匠
「気は済んだか?」
「どうだろ…」
「なんか…馬鹿馬鹿しくなってやめた」
俺達の言葉に師匠は「そうか」とだけ言い、両手を差し出した
師匠の手を掴んだ俺達は師匠に引き上げられて立ち上がる
「そんなもんだろ」
そう言って笑う師匠は朝日よりも眩しく見えた
どこへ行こう
社会人になりたての時は1日 働くだけで精一杯で、休日は溜まった家事や不足している睡眠で終わる
そんな生活にもようやく慣れてきたGW明け
「さて、どこへ行こうかな」
世間とはズレて取った連休にどこに行こうかとスマホで観光地を調べる
近場だと鎌倉あたりだろうか…なんて調べているだけで楽しい気持ちになる
風景
晴れた日、病院の屋上に行く
そこで適当なベンチに腰をかけるとスケッチブックを開いて鉛筆を走らせる
特にモチーフがある訳じゃないからホントに思うままに手を動かす
できあがった絵を腕を伸ばして見てみると風景画だった
花畑の奥に広がる空に空を泳ぐふわふわな雲
満足気にそれを見ていると看護師に声をかけられた
どうやら昼食の時間になっていたらしい
曇り
曇り空を見てあなたはなんと思う?
子供の頃は「曇りだけど、外で遊べるかなー?」と思っていた
大人になった今は「曇りってことは雨降るかな?折り畳み傘を持っていこうかな…」と思うようになった
大人と子供、立場も環境も変われば考えも変わる
天気のように…
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もう二度と
葬儀が終わり、火葬場に移動する
棺桶に入った想い人は業火に焼かれて黒煙に変わる
その様子をぼーと見ていると後ろから声をかけられた
「娘から貴方に渡してって…」
そう言いながら差し出された手紙を受け取り、了承を得てから手紙を開ける
『想い人へ』
その1文から始まる手紙
どんどん読み進めて行き、『早くいい人を見つけて幸せになって』の言葉で締められていた
「そんな事…無理に決まってるだろ…」
便箋に顔を埋める俺を義両親は優しく抱き締めてくれ、一緒に泣いてくれた
もう2度と会えない想い人を思い出にできる日が来るのだろうか…
手を繋いで
彼女とのデート中、隣を歩いている彼女の纏う雰囲気から怒りを感じる
原因はわかっているけどあえて放置している俺は性格が悪いと自覚している
普段と変わらず会話を続けるが彼女の返事が段々 適当になっていく
(そろそろか?)
そんなことを思っていると急に立ち止まった彼女から「ねぇ!」と声をかけられた
(来たか?)と内心わくわくしつつ「何?」と平然と返す俺に「ん!」と自分の手を差し出す彼女
ト〇ロに出てくる男の子か?とツッコミたくなる気持ちを何とか堪えて「何?」ともう1度 聞く俺
俺の「全く分かりません」という態度にあからさまに頬を膨らませる彼女
そんな彼女を「可愛いなぁ」と思いながら見つめていると痺れを切らした彼女が「手を繋いで!」と言ってくる
「いいよ」
差し出されている彼女の手を掴む
そうすると「そうじゃない」と言わんばかりに指を絡めてぴったりと俺の腕にくっついて隣に立つ彼女
「可愛いな…」
「当たり前でしょ!」
俺の呟きに彼女はドヤ顔で返してくる
そんな彼女に吹きそうになる
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君と見た景色
自分に自信がなくて下ばかり見ていた僕の手を引いて君が連れ来てくれたのは王都が一望できる高台だった
そこから見える景色に声がでない
「感動した?」
僕の顔を覗き込んで聞いてくる君の笑顔にドキッとする
僕の返事を待たずに君は前を向く君の横顔は美しい
でも、そのまま空に溶けていなくなってしまいそうだと感じた
離れたくないと咄嗟に君の手を握った
「どうしたの?」
「えっと…」
僕の唐突な行動に心配そうに聞いてくる君になんて答えていいか戸惑う
そんな僕の気持ちを読み取ったのか君はニコッと微笑んで僕の手を握り返してくれた
そこからは2人 手を繋いで高台からの景色を見た
それから挫けそうになった時、1番に思い出すのは君と見た景色だ