あなたへの贈り物
「ただいま」
リビングのドアを開けるとリビングテーブルに真剣な表情で座る妻がいた
「どうした?」
俺の質問に「話があるの」と言う彼女のただならぬ雰囲気に息をのむ
彼女の向かいに座るとスッと小さな箱を差し出され「これ、開けて」と言われる
嫌な汗をかきながらそっと箱の蓋を開けるとそこにはエコー写真が入っていた
思わず彼女の顔を見るとニコニコと笑顔の彼女がいて、さっきまでの雰囲気とのギャップと目の前のエコー写真に余計パニックになる
「貴方と私に贈り物が来たよ」
彼女のその言葉に涙が零れた
ゆっくりと傍まで歩いて来た彼女は俺の頭を抱き締めた
彼女の腰を抱き締め、子供のように泣く
神様、俺と彼女の元へ天使を連れて来てくれてありがとうございます
羅針盤
登山で遭難しない為に必要なコンパスを今回に限って忘れてしまった
登山道がしっかりある山だ
遭難することもないだろうと意気揚々と登山を開始する
ただひとりの君へ
唯一の肉親である母が亡くなり、遺品整理をしていると『ただ1人の君へ』と書かれた封筒を見付けた
宛名は明記されていないが、肉親は俺だけだから封を開けた
中には3枚の便箋が入っていた
手紙を読み進めていくにつれて涙が溢れる
『身体には気を付けて』
そう締めくくられた手紙を握り締め、泣き崩れた
大人になってこんなに泣くとは思わなかった
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明日に向かって歩く、でも
明日に向かって彼と歩く
そう決意した
でも…怖い気持ちはある…
『同性婚』という一般的とされるカテゴリーから外れた俺達を世間は後ろ指をさすだろう
それでも俺は…俺達は共に歩むと決めた
俯く時もあるだろう、苦しむ時もあるだろう、それでも俺達は笑って明るい未来を歩んでいく
透明な涙 風のいたずら
結構 強い風が吹き、土埃が舞う
土埃が収まると隣にいる彼女が透明な涙を流していた
「どうした!?」
慌てて彼女に声をかけると彼女は「土埃が目に入ったぁ」と目を擦る
「擦るな!
傷ができる!」
彼女の手を掴み、彼女と目を合わせるように屈む
じーと目を見つめる
彼女も俺を見つめ、首を傾げる
「とりあえず目を触るぞ」
「うん…」
了承を得てから下瞼を下に引っ張り、あっかんべーをさせる
「ん、大丈夫そう」
「ありがとう」
ニコッと笑う彼女に俺も笑顔を返した
風のいたずらで初めて彼女の涙を見る事になったが、やっぱり笑顔の彼女が好きだと思った
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手のひらの宇宙
彼女の誕生日にプレゼントしようと一生懸命スノードームを作る
スノードームと言っても雪の情景を模したものでは無く、宇宙を模したものだ
スノードームキットを使って手のひら大の宇宙を作る
最後に隕石に見立てたホログラムを入れ、精製水を入れて蓋をきつく閉める
ドキドキしながらスノードームを立てるとホログラムが降って綺麗だ
これは喜んで貰えそうだと胸を撫で下ろす
あなたのもとへ
今日の仕事を何とか巻きで終わらせ、新幹線に飛び乗った
「今 新幹線に乗ったよ」
彼にそうLINEを入れて、窓から外の景色を眺める
貴方の元へ向かうこの胸の高鳴りに落ち着かない気持ちになる
(早く会いたいな…)
彼の笑顔を想像して口角が上がる