たそがれ
一通りの家事を終わらせると急須に茶葉とお湯を入れる
茶葉を蒸している間に湯呑みとお盆を用意して、それぞれをお盆に乗せて縁側に行く
縁側に座ると湯飲みに急須でお茶を入れ、1口 飲んだ
ホッと一息つくとそのまま空を眺める
「母さん、今日もいい天気だよ」
話しかけるが、返事が返ってくる事はない
当たり前だ
妻は3年前に亡くなったのだから
「母さんと一緒にいたあの頃は楽しかったなぁ」
妻がいた頃に思いを馳せていると視界の端に赤いランドセルがうつり、視線を前に向けると満面の笑顔の孫がいた
「爺ちゃん!」
「おー、来たか」
よいしょ、と立ち上がった時に少しふらついてしまった
慌てたように孫が傍に来て身体を支えてくれる
「ありがとう」
「どういたしまして!」
可愛い孫の笑顔に癒される
きっと明日も
『今年も梅雨入りしました』
テレビから聞こえたその単語に「おー、今年は早かったな…」と呟いてしまった
ビルや家々を濡らす雨を窓辺から見上げる
きっと明日も雨だろう
明けない夜はないように上がらない雨はない
綺麗な青空を楽しみに今日も乾燥機に洗い終わった洗濯物を入れる
静寂に包まれた部屋
仕事を終え、借りているアパートへ帰る
いつもの時間、いつもの道
違うのはただ1つ
ガチャッと玄関を開けるとタタタッと軽快な足音と一緒に愛してやまない笑顔が出迎えてくれる
「おかえりなさい!」
「ただいま」
俺の足に飛び込んでくる愛娘の頭を撫でていると後から乳児を抱いた妻が来た
「おかえりなさい」
「ただいま」
静寂に包まれていた部屋に家族がいるだけで明るく温かい部屋に変わる
別れ際に 通り雨
カフェデートを楽しみ、そろそろお会計をと話し出した頃
窓を勢いよく叩く音が聞こえた
「あ、雨だ」
「通り雨っぽいよ」
雨に気が付いた私の呟きに彼はスマホを見ながら答えてくれる
はい、と見せられたスマホの画面には15分ほどで雨が止むと表示されていた
「ありがとう」
「どういたしまして」
スマホを返し、彼の顔を見るとニコニコと嬉しそうだ
「嬉しそうだね」
「愛しい彼女と過ごせる時間が延びるので♪︎」
「!?
さ、左様ですか…」
彼の屈託ない言動にこっちが恥ずかしくなる
恥ずかしいけど、嫌な気持ちはしない
だって私も同じ気持ちだから
窓から見える景色 秋
朝、眩しさを感じて目が覚めた
眩しい原因は中途半端に開いたカーテンから差し込む光だった
いやいや起き上がり、カーテンを開けるとさば雲が見えた
「秋の雲だな」
誰に言うでもなく口をついて出た言葉
さば雲が見えると言うことは雨が近いのだろう
今日は一応 折りたたみ傘を鞄に入れようと心に決める