形の無いもの
「ねぇ、形の無いものってどんなものだと思う?」
放課後の教室で日誌を書いていると前の席に座った友達に聞かれた
「目に見えないものとも言い換えられると思うから、気持ちとか感情とか?」
うーん、と考えてから自分の意見を伝えると「そっかー」と彼女から返ってきた
「急にどうした?」
「何となく…かな?」
特に意味のある返答を期待した訳では無いが、聞いてみたら思った通り意味のある返答は貰えなかった
やっぱり彼女の思考回路は不思議だ
夜景
「あー、疲れた…」
ドカッとソファに座り、手足を投げ出すと大きくため息をつく
ここはセカンドハウスだ
セカンドハウスと言っても祖父母から譲り受けたこじんまりとはしているが立派な一軒家だ
当たり前だが普段生活している環境から離れる為、人の気配がほぼ無い
放心していると「ぐぅ…」となんとも情けない音が聞こえる
どんなに疲れていてもお腹は空くらしい
よっこいせと言いながらソファから立ち上がり、リビングテーブルに向かう
テーブルの上には無造作に置かれたエコバックから弁当が少し見えている
「買ってきて正解だったな…」
あまりの疲れ具合に途中のコンビニで買ってきたお弁当をバックから出し、キッチンに持っていく
電子レンジに入れてあたためを押し、その間に麦茶を用意する
リビングテーブルにつくと手直にあるリモコンでテレビを付ける
適当に付けた番組を流し見しながら弁当を食べ終え、使った食器を洗う
缶ビールとお弁当と一緒に買ったつまみを持って窓辺へ行く
窓を開け、窓枠に腰を掛けると月が綺麗に見える
缶ビールとつまみを開ける
いわゆる月見酒だ
「夜景もいいが、酒を飲むなら月見だな」
独り言ち、缶を煽る
これが俺の週末の楽しみであり、生きがいだ
花畑
「1番 記憶にある花畑ってどんなところ?」
そう聞かれて思い浮かぶのはどんなところだろう?
「私はネモフィラかなー」
「うちは向日葵!」
「どっちもいいねー!」
友達同士で話が盛り上がっている
「チセは?」
ワクワクと興味津々でこちらを見る友人達に作り笑いを浮かべる
「花畑ではないけど、桜並木かな」
「おー、桜もいいねー!」
「春って感じ!」
何とか空気を壊さずにすんだとバレないようにため息をつく
彼女達には言えなかった母との唯一の思い出
ネモフィラが咲き乱れるあの場所の事
誰にも教えたくなった
君からのLINE
ピコン!と軽快な音が聞こえると勢い良くスマホを見る
「なんだ…」
公式LINEに落胆する
君からのLINEはいつ来るのか…
待ってるこの時間はドキドキワクワクする
カレンダー
部屋の中で1番目に付く場所に壁掛けカレンダーを置いている
カレンダーを新しい月のページにする時、毎月 必ずする事がある
それは毎週火曜日に赤い丸をする事
「今月もそれやってるの?」
「俺のルーティンだからね」
キリッとキメ顔で言う俺に彼女は笑う
毎週火曜日それは彼女の定休日であり、俺と彼女が出会った曜日でもある