踊るように
「花びらが落ちる姿って踊ってるみたいだよね」
「おー、君にはそんな風に見えるんだね」
「うん」
同じ景色を見ていても見る人が違うと見え方も違う
それを知った出来事だった
時を告げる
ピッピッ…ピッ…ピッ…
一定に鳴っていた電子音が段々と音の鳴る間隔が長くなる
「あなた、今までお疲れ様でした」
愛しい彼の手を繋ぎながら労いの言葉をかける
「いつまでも愛していますよ…」
愛の言葉を伝えるとピーと長く鳴る電子音
その後に担当医から「ご愁傷さまです」と伝えられ、頭を下げられる
私は子供のように泣き喚いた
表情や仕草、口調など些細な変化でも気になってしまう
疲れたのかな、気に触ったかなとあれこれ考えて自分が疲れてしまう
「こんな自分を変えたい」
いつかそう思うようになった
ピンポーンと軽快な音がリビングに響く
「はいはい」と言いながらインターホンまで小走りで行く
モニターにはキャップを目深にかぶった男の子とも女の子とも言える子供が立っていた
(誰だろ?)
首を傾げるがそんな事で誰かわかる筈もない
とりあえず話してみようとモニター近くのボタンを押す
「どちら様ですか?」
『えっと…その…』
もじもじと恥ずかしそうに言い淀む子供は声からして男の子だろう
「ゆっくりで大丈夫だよ」
私のその声に彼は安心したのかゆっくりと深呼吸を1度した
『あの、僕…
貴女の子供で…』
「ちょっと待ってて!!」
彼にそれだけ伝えるとバタバタと足音がするのも気にせず、玄関に走って行った
ガチャ!っと勢いよく玄関ドアを開ける
門扉の所に立っている彼はどうしていいのかわからずオドオドしていた
あれだけ急いだのに子供に近付く足取りは遅くなる
自分に近付く私に気が付いたのか彼は私の顔を見つめる
お互いを見つめ、いくつの時が過ぎた頃 口火を切ったのは彼の方だった
「えっと…初め…まして?」
「初め…まして…」
子供の顔をしっかりと見つめ、挨拶を返すが涙が止まらなかった
(この子は間違いなく私の子だ…)と直感でわかったから
「抱き締めても…いい…?」
「はい」
おずおずと私に手を伸ばしてくる子供を真綿で包む様に優しく抱き締めた
泣きながら抱き締める私を彼は優しく抱き締め返してくれた
突然の君の訪問に私は嬉し過ぎて泣いてしまった
朝目が覚めた時 最初に思った事は「海に行きたい」だった
ちょうど休日だし、さっさとベッドから起きた私は朝のルーティンを済ませる
「いただきます」
急いで作った朝食を前に手を合わせてから食べる
テレビから天気予報士の注意喚起の声が聞こえる
『今日も昨日まで同様、天気の急変があると思われます』
(雨晴兼用の折り畳み傘を持って行こうかな)
もぐもぐと咀嚼をしながら持ち物を頭の中に浮かべて行く
「ご馳走様でした」
手を合わせてから食器をシンクに持って行く
食器を水に漬る
一人暮らしだ、多少 家事をサボっても誰も咎めない
それをいい事に帰宅後の自分に洗い物を託す
さっさと身支度を済ませると鞄の準備をする
「お財布、スマホ、ハンカチ、ウエットティッシュにポケットティッシュ
あとは…」
必要であろう物を鞄に詰める
鞄を肩から掛け、玄関に移動する
今日は綺麗めな格好だけど、歩くしスニーカーにする
「行ってきます」
誰もいない部屋に声をかけて折り畳み傘を持って外に出る
これから行きたかった海へ向かう
ドキドキとワクワクで足取りがいつもより軽い気がする