「冬になったら……この種をまこうか。」
明須海は、ボソッと言った。
「冬に?なんで冬?」
と、照花は答えた。
「だって、春になったらお前はいないだろ?だから、冬に一緒に蒔きたいんだ。」
「よくわかんないけど……今じゃダメなの?」
「ダメだ、秋なんて。」
「?」
「秋、は飽きるんだよ。だから、冬に蒔く。」
「はあ……。」
照花は、やれやれと肩をすくめた。
【冬になったら】
「僕らが出会ったことは、意味がないことなんかじゃないよ。そうだろ?」
「でも、たくさんの人が死んだ。私たちは、何も出来なかった……。」
「そうかな。」
真斗は、首にかけたネックレスを、外した。暗闇の中で、わずかにボウッと光っている。
「これが光っているということは、まだ近くに、仲間がいる証拠だ。」
【意味のないこと】
「これは、あなたとわたしだから、出来ることなのよ。」
瑠奈は言った。
「そう、なのか?」
「そうよ。今から、この岩をアクティベートしましょう。そうしなければ、この村は、山崩れでなくなってしまう。」
「そんな……。」
【あなたとわたし】
「久しぶり。」
「おう、久しぶり……。」
「元気にしてた?自転車には、まだ乗ってたんだね。」
「……。」
「みんな、元気?」
「元気だよ。」
言葉が続かない。窓の外では、春の柔らかい雨が降っている。
「不思議だね。去年の今ごろは、あんなに一緒にいたのに。」
「そうだな。」
去年の今頃は、2人でお金集めに必死だった。そのおかげで、神社は新しくなった。なのに、俺はなんで、こんなに虚しいんだろう?
「もう、こっちには来ないのか?」
「こっちって……。四国?」
「ああ。みんな、寂しがってるよ。」
「みんな、私のことなんて忘れてるよ!」
瑠奈は自嘲ぎみに笑った。
「……忘れるかよ!」
「!?」
「みんな、お前がいるから、信じたんだよ!お前がいるから、ひとつになれたんだ!」
「真斗……。そんなこと、ないよ。みんな、真斗がいたから、ついていったんだと思う。あなたが、一生懸命だったから。」
「ダメなんだ……。」
「え?」
「俺は、お前がいないとダメなんだ!」
【柔らかい雨】
そのとき、暗闇の中に一筋の光が差した。
「誰かいるのか!!」
タカオの力強い声が聞こえる。
「ここだ!ここにいるぞ!!」
真斗は、声を振り絞って、力の限り叫んだ。
「おう……う……。」
郁弥も、言葉にならないうめき声を発している。
「郁弥、お前も分かるのか?助けが来たんだ!」
【一筋の光】