Sasha

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8/7/2023, 10:15:20 AM

「こうなることは、最初から決まってた!」
 
俺は満面の笑みで呟いた。目の前の画面は、クラウドファンディングで集めた金額が1000万円をとうに超えたことを示している。

「どうよ、俺の才能は!」

有頂天になる俺の横で、ゆいはなんとも言えない表情をしている。

「なんだ、嬉しくないのか?!これで本殿を再建できるっていうのに!」

「真っ当な手段なら、そりゃ嬉しいけど…。」

ゆいはテーブルの上の柿ピーを手で探って、ピーナッツだけを食べながら呟いた。

「あなたの方法って、詐欺みたいなもんなんじゃないの?神さまは、それで喜ぶと思ってるの?」

「え…。」

俺は、虚を突かれた。

「だって、本殿がないと神さまは困るんだろう?」

ゆいは、ついに立ち上がった。手にしたピーナッツを一つひとつ口にしながら、部屋をぐるぐる回っている。

「神さまは、お社にはこだわらない…。こだわるのは人間のほう。それも、真心込めたものでないと、邪念が入って神さまの力が逆に弱まると思う。」

「神さまの力って…。お前マジで言ってんのか?」

ゆいは俺を向き直った。顔にはうっすらと笑みを浮かべている。

「マジよ。」

さらに、向こうを向いたゆいは言った。

「御神体の山の、石を無断で持ち帰ったあの男がどうなったか知らないの?」

「いや…。」

「あの男が石を持ち帰ろうとしたとき、まず車がパンクした。それでも修理して自宅まで運んだけど、そうしたら今度は塀にぶつけて車が大破した。それでも石を屋敷に置いたから…。その男が経営していた会社は倒産したのよ。」

「…。」

「その男の娘の縁談も、破談になった。そこでようやく、男は気付いた。御神体のせいだって。」

ゆいは俺を指差した。

「神さまを信じない者は、怒りにふれる。当たり前でしょ!」

「だって…。俺は神さまのために働いてるんだぞ?クラウドファンディングだって立ち上げて…。」

「それが問題なのよ。あなたがしたことは、単なる自己満足よ!」

【最初から決まってた】

8/6/2023, 10:47:17 AM

「ああ、太陽だ…。やっと洞窟から出られた!」

俺は太陽のあまりの眩しさに目をシバシバさせた。

8/5/2023, 10:10:18 AM

(そのとき、石室の中からかすかに鐘の音)

「聞こえた?!またさっきの鐘の音だよ!」

「うん…。」(不安そうに後ずさる)

「きっとこの鐘の音に、何かヒントがあるんだよ!俺行ってみるよ。」

(スマホのライトをつけて、暗がりのほうに一歩進む)

「待って!私も行く!」

(男に取りすがる)

【鐘の音】

8/5/2023, 10:05:54 AM

「さて、どうやってこの窮地から脱するか…。(歩きながら)つまらないことでもいいから、言ってみてよ。」

「うーん…。(頬杖をついている)やっぱり神社の再建にはお金が必要なわけじゃない?真心だけでは建たないんだから。」

「そ、そりゃあそうだよ。」

「だったらさあ、いっそクラウドファンディングして、全国から寄付を集めたら?(立ち上がって)こんな山間部で、近所の人から寄付を募ってるだけじゃあ、絶対に1000万円なんて集まらないよ。」

「クラウドファンディング!聞いたことある!…でも、どうやってやるの?」

「呆れた、あんたそれでも大学出てるの?ちっとは勉強しなさい!」

【つまらないことでもいいから】

8/2/2023, 10:24:05 AM

病室に、空調の乾いた音が響いていた。
かたわらには、新生児用の小さい小さいベッドが設置されている。

赤ちゃんは、眠っているのか身じろぎひとつしない。産まれたばかりの赤ん坊が、こんなに眠るものとは知らなかった。

私は四角い窓から真っ青な夏の空を見上げ、生まれて初めて味わう充足感に浸っていた。その後に続く、辛く険しい療育のことなどまったく知らないまま。

【病室】

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