「ああ、太陽だ…。やっと洞窟から出られた!」
俺は太陽のあまりの眩しさに目をシバシバさせた。
(そのとき、石室の中からかすかに鐘の音)
「聞こえた?!またさっきの鐘の音だよ!」
「うん…。」(不安そうに後ずさる)
「きっとこの鐘の音に、何かヒントがあるんだよ!俺行ってみるよ。」
(スマホのライトをつけて、暗がりのほうに一歩進む)
「待って!私も行く!」
(男に取りすがる)
【鐘の音】
「さて、どうやってこの窮地から脱するか…。(歩きながら)つまらないことでもいいから、言ってみてよ。」
「うーん…。(頬杖をついている)やっぱり神社の再建にはお金が必要なわけじゃない?真心だけでは建たないんだから。」
「そ、そりゃあそうだよ。」
「だったらさあ、いっそクラウドファンディングして、全国から寄付を集めたら?(立ち上がって)こんな山間部で、近所の人から寄付を募ってるだけじゃあ、絶対に1000万円なんて集まらないよ。」
「クラウドファンディング!聞いたことある!…でも、どうやってやるの?」
「呆れた、あんたそれでも大学出てるの?ちっとは勉強しなさい!」
【つまらないことでもいいから】
病室に、空調の乾いた音が響いていた。
かたわらには、新生児用の小さい小さいベッドが設置されている。
赤ちゃんは、眠っているのか身じろぎひとつしない。産まれたばかりの赤ん坊が、こんなに眠るものとは知らなかった。
私は四角い窓から真っ青な夏の空を見上げ、生まれて初めて味わう充足感に浸っていた。その後に続く、辛く険しい療育のことなどまったく知らないまま。
【病室】
「明日、もし晴れたら山に登らないか?」
「なんで?」
「いや、だって…山が御神体なんだろう?様子を見てみたいんだよ。」
「はあ?反対じゃない?御神体だからこそ、登っちゃいけないものでしょ。」
「え、まさかお前バチとか信じてるの?んなの迷信に決まってるじゃん。」
「あっきれた…。これだから都会人は…。見えないものへの敬意とか、無いわけ?」
「敬意ったって…。」
「とにかく私は登らないから。」
退場
【明日もし晴れたら】