お気に入りとな。
お気に入りとは、言い換えれば自分の好きなもののことだろう。
さて、自分の好きなもの、ねえ。
言葉で手繰り寄せて、考えてみよう。
本。
小説、漫画、実用書、アートワーク等など。近年は置き場所の問題で電子書籍が多いけれど、紙の本も変わらず好きだ。電子には電子の、紙には紙の良さがある。その事について書くのも面白そうだが、好きな作家や、好きな物語についての文も面白いだろうか。
音楽。
クラシック、ポップス、ニューエイジ、サウンドトラック、ジャズ、ボサノヴァ、ロック、ハードロック、メタル、テクノ、気分に合わせて聞くのでそれぞれお気にいりがある。どのジャンルが良いだろうか…
石。
鉱石、宝石。ミネラルショーやマルシェなどに行くのが好きだ。お気に入りの石の話…は、かつて書いたな。石をイメージした物語とかにすべきか…。
色。
これは、随分前に紹介した記憶がある。
今一度文にする必要はないので今回はパスしよう。
お茶。
これも、よく書いているから今更か。パス。
お菓子。
ああ、これも以前書いたか。物語も作ったし、十分書いたの箱に入れておこう。
アクセサリー。
自作することが多いのでその時の話など面白いだろうか。アクセサリーに関しての物語は、過去に指輪の話を書いているので指輪以外の物語、か。
さーて、文にするのはどれが良いだろう。
本も惹かれるが、今回は音楽にしようか。
学生の時冗談抜きで毎日聴いていて、最近また毎日のように聴くようになったアーティストがいる。
名前を出して良いか判断がつかないので、念の為、テクノの大御所としておこう。
彼の人の音楽は、民族的であり、未来的であり、寛容であり、排他的であり、壮大であり、神秘的であり、荘厳さも、ニヒリズムも、人への愛も、類稀な才能で包括して魅せる。
一度聴くと心の深いところまで音が沁みていくのがわかり、その心地よさにリピートしたが最後、ズブズブと音楽に嵌っていってしまう。
聴くドラッグ(合法)を地でいくのだから脱帽である。
さて、アーティスト名は伏せたが、曲名位はご勘弁願おう。
筑波があると思われる方角へ深々と一礼する。
お気に入りの曲は
「ロータス」「オーロラ」「金星」「確率の丘」
「白虎野」「庭師KING」「力の唄」「Forces」
「舵をとれ」「MOTHER」「ビストロン」
「Big Brother」「MURAMASA」「гипноза」「Timelineの東」「Timelineの終わり」…ここいらでストップしなければまだまだ書き出しそうで怖い。止まろう。
我がことながら、お気に入りが多くて苦笑ものだ。
だが、まあ、良いか。
好みが沢山あることは悪いことではないのだから。
今日のテーマは「誰よりも」
…比較言葉故あまり好きではない。
一体誰と何を比べるのだ?
比べてどうするのだ?
得られるのは一時の慢心と
いつまでも埋められない劣等感でしかないではないか。
何事も比べずフラットにありたい。
そう思うのは、
競争社会に疲れた負け犬の遠吠えだろうか。
だが、
負け犬大いに結構。
比較の土俵には乗らない。乗りたくない。
その方が幸せは守れるのだから。
「十年前の自分に手紙を書きませんか?」
白黒の渦を巻くようなデザインに文字が踊っている。何とも見辛いのに、つい何と書いてあるのだろう?と文を追いたくなってしまう不思議なデザインのポスターだ。
そんな不思議なポスターを見つけたのは、駅の限定ショップだった。
普段は、物産展や、キャラクターのポップアップショップ、ジューススタンド等、その時その時で色いろな顔を見せるイベントスペースのような空間なのだが、今回は今までと毛色が違う。
白黒で統一された空間には、先ほどのポスターが飾られ、白黒デザインのレターセットが並んでいる。
見事なモノクロの世界に惹かれて店内を覗いてみることにした。
市松模様、ストライプ、ボーダー、アーガイル、波、様々なデザインのレターセットが並んでいるが全て白黒だ。
ここまで統一されていると気持ちが良い。つい折角だから何か買っていこうという気持ちになった。
目に付いたストライプのレターセットを一つ取る。
セットの中身はストライプ柄の封筒一枚、白と黒の用紙が一枚ずつ、ストライプ柄の切手が一枚。値段は960円。レターセットとしては色々少ないのに準備だけは良く、そのくせ割高という不思議な内容だ。
いつもであれば割高なものは買わない主義だが、何故か購入したいという気持ちのほうが勝りレジへと向かった。
レジには店員が一人しか居ない。黒髪の短髪男性だ。年は若いのか、若くないのかよくわからない。というのも、口元まで襟が覆っている為、イマイチ年齢が掴めないのだ。ブカっとした大きな襟の服の色は黒。このお店の制服なのか、店員の私服なのかは不明だ。目はカラコンだろうか、虹彩が白黒に渦を巻いている。
店員まで白黒に拘るなんて、コンセプトがブレないデザイナーさんのお店なんだなぁと何処かズレた事を思っていると店員が話しかけてきた。
「…ここの商品、使うの…ハジメテ?」
ボソリと呟く声は小さいが、なかなかの美声の持ち主だ。
私がハイと短く返事を返すと店員は、ボソリボソリと商品の注意点を教えてくれた。
机の上に件のレターセットを用意する。
店員曰く、このレターセット一式を使用すると十年前の自分に手紙が届くという。
十年前というと2014年だ。
その頃の自分に手紙を書くというのも何だか不思議な気持ちがする。しかし、ものは試しだ。
届いても届かなくても、その時楽しければ良い。
享楽的な面が気持ちを楽にしてくれたのか、迷うことなく筆をすすめあっという間に書ききった。
手紙を軽く読み直す。問題はなさそうだ。セットにあった切手を貼り、次の日駅近くのポストへと投函した。
郵便受けに手紙が入っている。
白黒ストライプの手紙だ。
友人からの手紙かと思い裏返すと、自分の名前が自分の字で書かれていた。
「なんだコレ」
頭に疑問符をいっぱい浮かべながら部屋へと持ち帰る。
自分宛に手紙を書くなんてことは一度だけ学校の行事だったかで経験はあるが、それはもう随分前に届いている。では、コレは何だろう。自分宛てであるし、開けても問題はないだろう。
オープナーでストライプ柄の封筒を切った。
封筒の中身は白と黒の紙が入っている。
恐る恐る手紙を開くと、そこには見慣れた自分の字が事の経緯を語っていた。
「2014年の私へ
この書き出し文であなたは、なんとなく察するでしょうが、私は2024年のあなたです。
不思議なお店で買ったこのレターセットにより、
この手紙は十年の月日を遡りあなたの元に届きました。
店員さん曰くあなたがこれから体験する直近の事を書くと手紙は届かなくなるようです。
そのため、あなたがこれからどんな事を体験していくかは書くことが出来ません。
ならば、何故今あなたに手紙を書いているかというと、あなたに伝えたい事があるからです。
耳が痛いかもしれませんが、最後まで読んでください。
好奇心や自分のやってみたい事、会ってみたい人がいたなら、やりなさい。会いに行きなさい。
自分の気持ちに蓋をする必要は一切ありません。
誰にもあなたの素直な気持ちを、願いを止める権利はありません。
自分の心に素直になってください。
人のことを考え、様々なことを気にしているあなたは、優しいですが、その優しさを自分自身にも分けてあげてください。
あなたは、過去の自分をよく罰していますが、もう十分学んだし、理解したはずです。それ以上は心を苦しめるだけで成長も出来ません。出来なかった過去を恨んでも意味はありません。勝ち組負け組という言葉に囚われるのも、もうやめましょう。
私は今、あなたから見て負け組ですが、十二分に幸せです。個人の幸せは、勝ち組負け組といった概念など関係ありません。
どうか、自分の本当の気持ちに素直になって。あなたの周囲に渦巻く沢山の概念から、あなたに合うものを選んでください。
選ぶ権利はあなたにもあります。
大丈夫、自分の心に聞けば答えはわかるから。
この手紙は一度読まれると消失するようです。
だから、忘れないで。
自分の心に素直になるんだよ。
2024年の私より」
十年後の私から届いた手紙に心がぐるぐると渦を巻いている。欲しくて欲しくない言葉が頭の中で回っている。もう一度読めば、冷静に理解できるはず。
そう思った矢先、手の中にあった手紙が透け始めた。慌てふためくも手紙が消えていくことを止めることは出来ない。
手の中にあった手紙は初めから存在しなかったかのように、姿を消した。
私は呆然と何もなくなった手の平を見つめ、ぐるぐる渦巻く感情に一人涙をこぼした。
バレンタインは、ご褒美チョコの日と化して久しい。
日々の疲れにちょっとお高いご褒美チョコ。
しかも期間限定品とくれば、気分も上がるというものだ。
普段のチョコも十二分に好ましいものだが、バレンタイン時のチョコはデザインや素材の拘りなど視覚、味覚共に華やかで嬉しい。
美しいチョコをこれまた美しいデザインの缶に入れているのもにくい仕様だ。
ココだけの話、缶欲しさに購入してしまったチョコもある。
華やかなチョコを前に「バレンタインって恋人のイベントなんだよな…」と、我に返る瞬間もある。
だが、まあ、硬いことは言わず、美味しいチョコを食べる日で良いではないか。
恋人のためだろうと、自分のためだろうと、幸せであるなら何の問題もないのだから。
風邪薬が切れた。
さっきまで違和感のなかった喉がイガイガし始め、鼻の奥もツンツンと痛む。
薬という枷が取れて、風邪が好き勝手し始めたようだ。
風邪っていうやつは厄介だ。
はじめは喉の痛みだけだったのに、気づいたら鼻にまで魔の手を伸ばしている。
鼻が詰まるせいで息はし辛いし、頭もぼんやりするし、喉のイガイガは咳したくなるし、あぁもう、鬱陶しいったらありゃしない。
こうしている間にも風邪は体を侵略しようとしているのだろう。
…寝込むわけにはいかないのだよ、こちとら。
デスクワークを中断し、引き出しの中にしまっておいたポーチの中から、風邪薬を一回分取り出す。
ペットボトルの水、準備OK。
好き勝手暴れてくれてやがる風邪さんへ
ちょっと待っててね、今から薬をキメた免疫細胞達があなたのもとに向かうから。
首洗って、待っててね。
私はにこやかに微笑むと薬を口に放り込んだ。