「好きです」って、駅のホームで。
今でも思い出す、本当の話。
青い春を過ごしていた高校2年生の私は、セーラー服を着て、一世一代の告白をした。
電車が毎日一緒な、男子校の彼。
その日は朝から暑い夏休みで、部活があった私もいつもラケットを持っている彼も、同じホームで同じ電車を待っていた。
部活を引退したら、少しでも時間がズレたら、もう二度と会えなくなる。そんなことで会えなくなるほど、薄い関係。それでも、大好きだった。
夏休みの間、言うか言わないか。声をかけるかかけないか、悩んで、ウロウロして。彼からしたらよほどの不審者だったかもしれない。私が彼の方に歩くと、向こうが気づいて「?」というように首を傾げてきた。
認識された、もう逃げられない。いや、逃げちゃダメなんだ。しっかり目の前に立って、伝えた。
「あの…私」
『ああ、えっと、いつも同じ電車の人ですよね。部活すか?』
「そうです」
前から知っていた、と聞き、素直に嬉しい私。日常会話を交わしたこと、ひどく嬉しかったこと。今でも覚えてる。
「私、伝えなきゃと思ってたんです」
「好きです」
「ずっと、好きでした。まだ、同じ電車の人っていうイメージしかないかもしれないけど。友達からでいいので、恋愛対象として、見てもらえませんか」
天国と地獄があるかなんて、
当たり前だけど分からない訳で。
なのに自分らがよくこの言葉を使って「死んだ後」を想像するのはきっと、希望のため。
死ぬのが怖くならないように。
大切な亡くなった誰かを、今は目の前にいない誰かが幸せでありますようにって思えるように。
せめて死んだ後は幸せでありますように。
いい人であれるように。
ないって思う人もいるんだろう。きっと強いひと?芯がある人?現実主義な人?
みんなはなんで信じてるの?そう習ってきたから、ではないやろ。漠然と、って人もいるかもな。
自分は、いい人であれるように。
今日の自分が、嫌な奴にならないためにあるって信じてる。正直者が馬鹿を見る世界より、幸せになれる童話のほうが好きだから。何か善を行う、勇気のため。何か失敗した時、でも行動だけでもして良かったって思えるため。
まぁ、完全に優しさで全部行っているわけでもない。
考えてることも全て鬼や天使にバレてるなら。表面上だけ取り繕って、本音は言えないまま。性格の悪い、「愛され上手だね」って言われる自分はきっと、地獄行きだ。
私だって本当は、今だけを楽しんで考えて生きたいよ。
この手紙を読んでるってことは今俺は泣いてるかな。
いや痩せ我慢して泣かない俺に、アイツ怒ってるんだろうな。
なんで分かったんだ、天才だって思ったでしょう。
そう、天才なんだよ。ってふざけたいとこだけど、今回はやめておく。これを書いてるのは、数年後の俺だから分かるよ。到底信じられないだろ?
あの頃の俺は、急に先輩が死ぬなんて思ってなくて。死が身近なものなんだって知らなくて、動揺した。「誰でもあるはずの明日が」先輩にはないんだって気づいて、どうしようもない感情に襲われたよな。
急に顧問から電話が来た時、なんだか胸騒ぎがした。俺にわざわざ電話することなんてないでしょう。今どきLINEで済むもんな。電話に出て、亡くなったって聞いた時。耐えきれなくて顧問に聞こえないように息を殺して泣いた。顧問にはバレてて静かにありがとうって言ってたけど、俺は亡くなってんのに、何がありがとうだよって思って、もう亡くなってるって認めたくなくて「なにがですか」って言った。続けて、顧問もしんどいだろうから休んでくださいって言ったら「俺がその言葉を○○にかけてやれば良かった」って泣いてて、何も返せなくて。そんなん、後輩の中で1番仲良かった俺が1番思ってるよって、なんでかイラッとした。
次の日学校がいつも通りあって、いつも通り授業を受けて、昼飯食べる時に気づいた。先輩がいなくたって、俺の人生は回るんだ。何一つ、世界は変わらない。全校集会で彼が亡くなった、って話があったことぐらい。死因が死因だから「触れちゃダメだ」みたいな雰囲気で、誰1人俺に話をしてこなかった。
皆の中で、先輩は触れちゃいけない存在になった。
前は明るくて、穏やかでみんなから好かれる部長だったのに。前から「先輩が部長って大丈夫っすか!?」って言うと「何が大丈夫か、なんだよ!平気だよ、馬鹿」と俺を小突いてくるような、お茶目な先輩。
なのにしっかりしてて、部のまとまりがない時は「たるんでないか?」って周りを正してくれた先輩。俺が試合に負けて落ち込んでる時、「何泣いてんだよ」って声かけてくれる、周りを見てる先輩。
俺が彼女と別れてそこまで落ち込んでない先輩に、本当に好きだったんすか?と聞いた時。「意外と傷ついてないし、いなくても支障ないし。楽しかった、好きだったつもりだけど好きじゃなかったのかな」って話す意外と冷たそうなとこも。
全部、思い出せるのに。
部活の招集がかかって、放課後教室に集まる。
内容はみんなの話が聞きたいってことと、暫く部活は休みだってこと。皆が皆すごく暗くて、息が詰まりそうだ。
「こんな時、部長が笑わせてくれてましたね」
って俺が言うと、俺は先輩と同学年の先輩に殴られた。
「そういうこと言うな」
「何が駄目なんですか」
俺が聞き返すと、みんなが静かになった。
殴ってきた奴は俺を睨みつけて、黙れって言った。
「なんで、先輩の話をしちゃいけないんですか」
今までモヤモヤしてた感情も、やるせなさも全部声に出なくて、俺は走ってその場を後にした。ドアを激しく閉めたから、周りには俺が怒っているように見えただろう。
自分の教室に戻って席に着く。窓際の席だから、部活をいつも通り行う野球部の姿が見える。
「先輩が死ななかったら俺たちだって」
1番してほしくなかった、したくなかった、先輩のせいにするみたいな言い方。こんな自分嫌だと思っても、止められなくて呟いた。
「なんで死にたかったんですか」