NoName

Open App

この手紙を読んでるってことは今俺は泣いてるかな。
いや痩せ我慢して泣かない俺に、アイツ怒ってるんだろうな。
なんで分かったんだ、天才だって思ったでしょう。
そう、天才なんだよ。ってふざけたいとこだけど、今回はやめておく。これを書いてるのは、数年後の俺だから分かるよ。到底信じられないだろ?

あの頃の俺は、急に先輩が死ぬなんて思ってなくて。死が身近なものなんだって知らなくて、動揺した。「誰でもあるはずの明日が」先輩にはないんだって気づいて、どうしようもない感情に襲われたよな。

急に顧問から電話が来た時、なんだか胸騒ぎがした。俺にわざわざ電話することなんてないでしょう。今どきLINEで済むもんな。電話に出て、亡くなったって聞いた時。耐えきれなくて顧問に聞こえないように息を殺して泣いた。顧問にはバレてて静かにありがとうって言ってたけど、俺は亡くなってんのに、何がありがとうだよって思って、もう亡くなってるって認めたくなくて「なにがですか」って言った。続けて、顧問もしんどいだろうから休んでくださいって言ったら「俺がその言葉を○○にかけてやれば良かった」って泣いてて、何も返せなくて。そんなん、後輩の中で1番仲良かった俺が1番思ってるよって、なんでかイラッとした。

次の日学校がいつも通りあって、いつも通り授業を受けて、昼飯食べる時に気づいた。先輩がいなくたって、俺の人生は回るんだ。何一つ、世界は変わらない。全校集会で彼が亡くなった、って話があったことぐらい。死因が死因だから「触れちゃダメだ」みたいな雰囲気で、誰1人俺に話をしてこなかった。
皆の中で、先輩は触れちゃいけない存在になった。

前は明るくて、穏やかでみんなから好かれる部長だったのに。前から「先輩が部長って大丈夫っすか!?」って言うと「何が大丈夫か、なんだよ!平気だよ、馬鹿」と俺を小突いてくるような、お茶目な先輩。
なのにしっかりしてて、部のまとまりがない時は「たるんでないか?」って周りを正してくれた先輩。俺が試合に負けて落ち込んでる時、「何泣いてんだよ」って声かけてくれる、周りを見てる先輩。
俺が彼女と別れてそこまで落ち込んでない先輩に、本当に好きだったんすか?と聞いた時。「意外と傷ついてないし、いなくても支障ないし。楽しかった、好きだったつもりだけど好きじゃなかったのかな」って話す意外と冷たそうなとこも。
全部、思い出せるのに。

部活の招集がかかって、放課後教室に集まる。
内容はみんなの話が聞きたいってことと、暫く部活は休みだってこと。皆が皆すごく暗くて、息が詰まりそうだ。
「こんな時、部長が笑わせてくれてましたね」
って俺が言うと、俺は先輩と同学年の先輩に殴られた。
「そういうこと言うな」
「何が駄目なんですか」
俺が聞き返すと、みんなが静かになった。
殴ってきた奴は俺を睨みつけて、黙れって言った。

「なんで、先輩の話をしちゃいけないんですか」

今までモヤモヤしてた感情も、やるせなさも全部声に出なくて、俺は走ってその場を後にした。ドアを激しく閉めたから、周りには俺が怒っているように見えただろう。
自分の教室に戻って席に着く。窓際の席だから、部活をいつも通り行う野球部の姿が見える。

「先輩が死ななかったら俺たちだって」

1番してほしくなかった、したくなかった、先輩のせいにするみたいな言い方。こんな自分嫌だと思っても、止められなくて呟いた。

「なんで死にたかったんですか」

5/24/2023, 5:44:24 PM