テーマ:記憶のランタン
「ふふ…」
薄暗い部屋の中。
手元の小さな光に照らされながら、
思わず笑みがこぼれる。
ぐー、ぐー、と寝息を立てる小さな娘。
その横で、母はスマホの画面をそっとスクロールしている。
もちろん、中は娘の写真で埋め尽くされている。
カメラを向けると、ほっぺに人さし指を当てる姿。
運動会では、ぶどうの衣装を身にまとって踊った。
みかんを両頬に添えて、無邪気に笑った日。
スクロールするたび、写真がぽっと灯るように浮かび上がる。
記憶のランタンのように、
スマホの光は思い出をよみがえらせる。
「…ぃたっ」
娘に背後から蹴られた。
スマホの光で起こしてしまっただろうか?
慌てて画面の光を落とす。
「…ぐー、ぐー。」
娘のほうを見る。
どうやら起きてはいなかったようだ。
指しゃぶりをする寝顔。
さっきまで灯っていた光は、もう消えている。
小さないびきを聞きながら、母も眠りにつく。
テーマ:君を照らす月
窓の外をのぞきこみながら、きょろきょろと月を探す娘。
絵本『おつきさまこんばんは』を読んでから、
空に月を探すようになった。
「おつきさま、みえないねー」
「雲さんとお話してるのかな?」
「あっ」
雲間から、ふいに月が顔を出した。
娘は少し興奮気味に、まくしたてる。
「おつきさま、くもさんとおはなししてたよ!
おつきさま、こんばんはだよ!
おつきさまがね、くもさんとね――」
「そうだね、雲さんとお話してたんだね。
お話が終わって、出てきたんだね」
「おつきさま、みえたよ!」
幼い瞳が月を見つめて輝き、
小さな手は光のほうを指さしている。
君を照らす月は、まんまるい形をしていた。
テーマ:木漏れ日の跡
授業中、ふと床を見ると、
木漏れ日の跡が揺れている。
キャンパスノートを机に広げ、
きれいな水色のシャープペンシルを使って
板書を写す。
窓は少し開いていて、そよ風が心地よい。
季節は、春。
自然豊かなこの白い学び舎で、
静けさのなかに先生の声を遠く聞く――
はっ、と人の気配で目を覚ました。
いつの間にか、眠ってしまったらしい。
「おはよう」
・・・ん?
「お母さん、ごはん」
「おはよう」
私は、寝ぼけたまま挨拶をする。
また学生時代の夢を見たようだ。
カーテンの隙間から差す朝の光に、
さっきの夢の余韻が少しだけ残っていた。
テーマ:ささやかな約束
保育園からの帰り際、娘のお友達が声をかけてくれた。
「またあした、あそぼうねー!」
ふたりはハイタッチして、にっこり笑う。
「またあした、あそぼうねー!」
うちの娘も、同じ言葉を返した。
娘にとって、その子はお姉さんのような存在だ。
月齢の離れたお友達は、いつも優しく手を引いてくれる。
2歳と3歳が交わす、小さくて、ささやかな約束。
ふたりは、姉妹のように、いつでもいっしょ。
朝、登園すると、自然に手を引いて席に着く。
小さなお手々を繋いで、散歩に行く。
明日もまた、仲良くあそべますように。
そんな願いを胸に、私はふたりの姿を見守った。
テーマ:祈りの果て
小さく、かすれるほどの声で、
ひとつの魂が祈った。
どこか、ここではない遠い場所へ――
心穏やかに過ごせる、
迫害のないところへと。
寒さに震えることなく、
痩せた体が病に蝕まれることもなく、
意地悪な人々に
心無い言葉を投げつけられることもない
そんな場所へ。
祈りの果てに、神様は遠い場所へ
運んでくださった。
暖かい寝床、安全で静かな環境、
優しい人々。
ほかほかと湯気を立てるスープ。
向けられる笑顔につられ、
こわばっていた表情も、やがてゆるむ。
お腹も心も満たされ、
守られながら眠る夜。
窓の外の月は、美しかった。
――もう大丈夫だよ。
空は、そう言って微笑んでいるようだった。
それが、祈りの果てに見つけた世界。