もちもち、すべすべ、しゅわしゅわ。
これらは私が焦がれてやまない感覚たち。もちもちとしたほっぺは見ているだけで癒されるし、すべすべとした大理石の床は触っても寝転がってもいい。しゅわしゅわとした細かな気泡たちが動いているのを見ていると、本当に心は浮き足立ってくる。その感覚をたくさん覚えておきたい。
けれど、全部の感覚をもってしても、それよりももっともっと焦がれるものがある。
それが、きらきら。
寒い日に星が光って、体育館の特別な日だけ照明が凝り始めて、好きな人の笑顔が眩しくて。全部きらきらしている。宝物のメタファーそのもの。掴みたくても掴めない遠さも愛おしいほど。光が好き、輝きが好き。響きも好き。離れているところから届いている実感が好き。
いつかそのきらきらが、私から放たれているんだなという実感を持ちたくて、持ちたくて持ちたくて持ちたくて仕方がない。
嘘みたいな本当の話をしようと思った。僕は初めて家族以外の人と住むことになった。つまりはそういうこと。でも、僕以外でこれを見てる人が思っている同棲みたいなものとは、だいぶかけ離れたものだ。なぜなら、そいつはヒモだから。
仕送り暮らしのスネかじりと、
元キャバ嬢のヒモ男。
どっちが先に音を上げるのか。楽しみだ。
どこまでもどこまでも遠くへ行こうとした。それなら、もうあなたに会わなくて済むから。あの小さなコインランドリーが、大きな大きな鳥かごだったら良かった。いややっぱり、そんなことはない。キャリーケースには数枚の服しか入っていない。彼女と俺の家は、彼女と新しいヒモの家になる。古くてほつれた紐は、捨てられてどっかに行くのが正解。オマエと一緒にやったあやとりも、ボロボロになってポケットの中。喪失感が心を占めるのは、彼女に捨てられたからか。もうとっくに冷めきった恋なのは分かっていた。だからこそ原因はそこにないことがわかっている。数少ない荷物、観葉植物の鉢。大きくて肉厚な葉が、歩くリズムに合わせて揺れる。行く宛てなんてない。ない。宛てはないけれど、寄り道くらいはしてやろう。
「洗濯機、割り勘する?」
ぽつんと待つ人影がいた。咄嗟に、ポケットの中にあった古いあやとり紐を押し付ける。オマエは、そこで待っていた。コインランドリーで、滅多にかけない乾燥機がひとつだけ回る。偶然会う日を待っていたとして、どれだけ待っていたのだろう。彼女以外と話す唯一だったから、思い入れがない訳じゃない。だけど、そんなことがあるか。
「一緒に住もうって、言ってんの」
そんなことがあっていいのか。確かに俺は彼女と別れたばかりだけど。オマエは、言ってやったと満足げで、目の奥に不安がにじんでいる。ああ神様。俺の救いの糸は、こんなに太くて不格好なんでしょうか。行く宛てなんてない。断ろうにも、屋根と壁がある場所というのは、なんとも魅力的だ。オマエの目はいかにも真剣で、面倒になってくる。だって、利用するのに気が引けるじゃないか。お前も洗濯機を買う甲斐性がないんだから。
「僕らがいるところが、僕らの未来ってこと」
ああ、負けだよ。空っぽなスーツケースを転がしてコインランドリーを出る。乾燥機は回っているのに、オマエの自転車置きっぱなのに。俺が忘れた鉢植えを携えて、俺の横に並んで歩きやがる。足取りも弾んでる。俺良いって言ってないよ。
『俺らの居る場所が、俺らの未来』
じゃあ、手始めに電気屋にでも行こうか。
新しい年来たけど今年も僕ぼっちですよ