ある昼下がりのこと、アンタが居ないコインランドリーは暇で仕方がなかった。しりとりも、あやとりも、雑談も出来ないままぼーっと過ごす。さしこんだ日溜まりが暖かいので、壁にもたれて考え事をするうちにうたた寝してしまった。
白黒映画のような、綺麗な場所にいる。
美しくなびく髪は、烏の濡れ羽色。いつしか写真の中で見た美しい人が、森の中に佇んで歌っている。精霊のような美しい声で、風に揺られながら笑っている。これが、アンタの彼女なのか。
突如耳が痛くなってその場に踞る。何かの病気か森の祟りか、怖くなって荒くなる呼吸、そのうち息も出来なくなっていって、意識が途切れる。
「オマエ、すげーいびきかくんやな」
「……なんだ、あんたか」
細く骨張った手が、僕の耳と鼻をぎゅっとつねっていた。差し込む光と空は紫色で、とっくに洗濯は終わっている。寝ぼけたままふらっと立ち上がって、洗濯物をバッグに詰め込んだ。
「アンタの彼女、夢に出てきた」
「……おう。取るなよ」
目を瞑ると、薄ぼんやりとしたままの記憶。
「すごい綺麗な声した」
「じゃあ俺の彼女ちゃうわ、すげー酒やけしてるもん、俺の彼女は」
「……そっか」
起きてしばらくすると、その夢は思い出せなくなっていた。大きなランドリーバッグを携えて外に出ると、冷えた空気が鼻につんと来た。
2/15/2025, 3:25:42 PM