田中 うろこ

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12/7/2024, 11:15:11 AM

『部屋の片隅で』

「あの、その、離してよ……」
「やだよお前離したらすぐ逃げんじゃん」
「そ、そうだけど……」
「認めるなよ」
細マッチョに、全力で迫られている。ここは俺の家の寝室。寝る場所はここしかないので、まあこうなってるのは仕方がないけど。
「俺みたいなの抱き枕にするなんて正気?!」
俺、180cmあるよ? 身長。女の子とかにしなよ。

「だってそこにいるし」
「もういい! キューティ☆マリーちゃんの抱き枕持ってくるから、それ使いなよ……」
「お前がいいんだけど」
「どうせ暖かいからとかでしょ……」
こんなむさっ苦しいのはやだよ。でも、終電ないらしいし、うちソファーも布団もないし。

「はあ……布団、もう一組予備持っとけば……」
「あったとしても俺はお前を捕まえるけどな」
「嘘こけ……こんな、コワモテのデカいオタクなんて、抱き枕にするもんじゃないって……」

「え? だって、お前可愛いんだもん」
「目がいかれてるの?」

12/3/2024, 2:38:34 PM

『さよならは言わないで』

夢を見た。さながら白昼夢のようで詳細は忘れたが、たしかあなたはこう言っていた。
「じゃあな、〇〇〇」
そう言いながら、俺が住む団地の四階から飛び降りて行った。夢の中の俺は特に狼狽えることもせず、また帰ってくると思いながら呑気に手を振った。それから、数ヶ月。彼が戻ってくることはなく、新聞の紙面で彼が居なくなったことを知る。あの時俺が止めていたなら良かった。そうすれば、あの人は死ななかった。

「……ねえ、」
「ん、どした?」

それはもちろん夢の話。今、夢で死んでしまった彼は目の前にいる。そして玄関から普通に帰る。

「今日さ、変な夢見たんだ」
「ああ、そりゃ災難だったな」
「だからね、いつもみたいにじゃあなって言って欲しくないんだ」

そう伝えると、何も意味がわからないと言った風に首を傾げた。それはそうだ。

11/29/2024, 1:25:27 PM

冬の始まり

秋が来ると一気に過ごしやすくなる。夏ほど暑くなく、冬ほど寒くない。たまにどちらか寄りになるのを何度か繰り返すと、いつの間にか冬になっている。冬の始まりは、若干肌寒い。
「ヒートテックどこしまったっけ〜?」
そして今、朝出かける前なのに探し物をする始末。たしかここら辺にやったから、あと少しで見つかるはずなのだ。
「あ? 今日見つけなくてもいいだろうよ、別に」
「やだよ! もしもっと寒くなったらやだ」
自分でも分かる、寝ぼけていて語彙が少なすぎること。ヤダしか言わないなんて子供みたい。
「そんなタンスの中身ポイポイ出すなよ」
「いいもん、自分で後で片付けるし」
しない。絶対にめんどくなって頼む羽目になる。
「ガキのフリするな、お前29なんだろ?」
「うぐ……」
夏場に着たヘンテコなTシャツを握りしめながら見上げると、そこには去年ぶりに顔を合わせるヒートテックの姿が。さっすがー!!
「え、どこにあったの?」
「さっき投げてたよ、裏地グレーだから気づかなかったんじゃね?」
そう言いながらも、しっかり黒い面が上になってるあたりさすがとしか言えない。
「ありがとう〜!」
「うっせ、さっさと行くぞ」
こういう時、恋人ならヒートテックが無くても、人肌で暖めてやる。とか言うのかな。
「俺の手、ヒートテックであったかいから、協会まで繋いでいかない?」
「……俺別に寒がりじゃないけど」
「お礼みたいなものだよ」
「気色悪いなあ、お礼になるかよ」
そう言いながらちゃっかり、手をぎゅっと握りしめてくれる。この強い拳が、誰より暖かくて、心強いんだよ。

11/29/2024, 5:29:47 AM

「私たち、卒業したらバラバラだね」
「まあ、そだな。俺もこんなとこ来る用事そうそうないしな。」

11/23/2024, 3:30:02 AM

「俺たち、夫婦で言ったらさ」
「お、おん」
「どっちがどっちになるんだろうな」
「いや、どう考えてもお前が嫁じゃね?」

「確かにさあ、俺は女だよ?」
「うん、そりゃそうだよ」
「けどさ、料理はお前のが美味いじゃん」
「お前料理できねぇから」
「俺だってやればできる! けどお前が全部やってくれるから成長しなかったの!」

「オレらそもそも両方タキシード着たしな」
「だって俺ドレス似合わないもん」
「そりゃそんなに背が高けりゃな」
「別に北斗がドレス着れば良かったんじゃない? はは、スレンダーだからきっと似合……う……」
「想像して笑ってんじゃねえか!」

「由樹はさ、どうしてオレにしたの?」
「うーん、お前とならどこにでも行ける気がしたから。何しててもうまくやれそうだし」
「お前はどんな壁でも殴り飛ばしそうだけどな」
「でも手当てはお前がしてくれなきゃ」
「別に捨てて帰ってもいいんだぞ?」
「照れるな、俺を見捨てられないことも知ってるから」
「……………………」
「やっぱ北斗が嫁かぁ〜?」
「北斗晶みたいだからヤダ」

おわり

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