『さよならは言わないで』
夢を見た。さながら白昼夢のようで詳細は忘れたが、たしかあなたはこう言っていた。
「じゃあな、〇〇〇」
そう言いながら、俺が住む団地の四階から飛び降りて行った。夢の中の俺は特に狼狽えることもせず、また帰ってくると思いながら呑気に手を振った。それから、数ヶ月。彼が戻ってくることはなく、新聞の紙面で彼が居なくなったことを知る。あの時俺が止めていたなら良かった。そうすれば、あの人は死ななかった。
「……ねえ、」
「ん、どした?」
それはもちろん夢の話。今、夢で死んでしまった彼は目の前にいる。そして玄関から普通に帰る。
「今日さ、変な夢見たんだ」
「ああ、そりゃ災難だったな」
「だからね、いつもみたいにじゃあなって言って欲しくないんだ」
そう伝えると、何も意味がわからないと言った風に首を傾げた。それはそうだ。
12/3/2024, 2:38:34 PM