冬の始まり
秋が来ると一気に過ごしやすくなる。夏ほど暑くなく、冬ほど寒くない。たまにどちらか寄りになるのを何度か繰り返すと、いつの間にか冬になっている。冬の始まりは、若干肌寒い。
「ヒートテックどこしまったっけ〜?」
そして今、朝出かける前なのに探し物をする始末。たしかここら辺にやったから、あと少しで見つかるはずなのだ。
「あ? 今日見つけなくてもいいだろうよ、別に」
「やだよ! もしもっと寒くなったらやだ」
自分でも分かる、寝ぼけていて語彙が少なすぎること。ヤダしか言わないなんて子供みたい。
「そんなタンスの中身ポイポイ出すなよ」
「いいもん、自分で後で片付けるし」
しない。絶対にめんどくなって頼む羽目になる。
「ガキのフリするな、お前29なんだろ?」
「うぐ……」
夏場に着たヘンテコなTシャツを握りしめながら見上げると、そこには去年ぶりに顔を合わせるヒートテックの姿が。さっすがー!!
「え、どこにあったの?」
「さっき投げてたよ、裏地グレーだから気づかなかったんじゃね?」
そう言いながらも、しっかり黒い面が上になってるあたりさすがとしか言えない。
「ありがとう〜!」
「うっせ、さっさと行くぞ」
こういう時、恋人ならヒートテックが無くても、人肌で暖めてやる。とか言うのかな。
「俺の手、ヒートテックであったかいから、協会まで繋いでいかない?」
「……俺別に寒がりじゃないけど」
「お礼みたいなものだよ」
「気色悪いなあ、お礼になるかよ」
そう言いながらちゃっかり、手をぎゅっと握りしめてくれる。この強い拳が、誰より暖かくて、心強いんだよ。
11/29/2024, 1:25:27 PM