「私たち、卒業したらバラバラだね」
「まあ、そだな。俺もこんなとこ来る用事そうそうないしな。」
「俺たち、夫婦で言ったらさ」
「お、おん」
「どっちがどっちになるんだろうな」
「いや、どう考えてもお前が嫁じゃね?」
「確かにさあ、俺は女だよ?」
「うん、そりゃそうだよ」
「けどさ、料理はお前のが美味いじゃん」
「お前料理できねぇから」
「俺だってやればできる! けどお前が全部やってくれるから成長しなかったの!」
「オレらそもそも両方タキシード着たしな」
「だって俺ドレス似合わないもん」
「そりゃそんなに背が高けりゃな」
「別に北斗がドレス着れば良かったんじゃない? はは、スレンダーだからきっと似合……う……」
「想像して笑ってんじゃねえか!」
「由樹はさ、どうしてオレにしたの?」
「うーん、お前とならどこにでも行ける気がしたから。何しててもうまくやれそうだし」
「お前はどんな壁でも殴り飛ばしそうだけどな」
「でも手当てはお前がしてくれなきゃ」
「別に捨てて帰ってもいいんだぞ?」
「照れるな、俺を見捨てられないことも知ってるから」
「……………………」
「やっぱ北斗が嫁かぁ〜?」
「北斗晶みたいだからヤダ」
おわり
一筋の光
私にとってのあの子だ。夜の帳がゆっくり降りて、星の光たちがあたりにきらきら足をつける。その中でも一際輝く満月みたいな優しい光があなただ。愛しいよ、苦しいよ。だって朝が来たら行ってしまうじゃない。笑って次の夜を迎えられないかもしれないじゃない。
それでもあなたのことだけは、いつまでも満月のままでいてと願う。他者への祈りは傲慢な呪いと同じだ。だけど、暖かい光と冷たい空気が許してくれているような気がした。そんな澄んだ夜が好きだ。あなたが好きだ。
(片思い中のポエムなのでした)
『哀愁を誘う』
寒風が吹きすさぶ季節に食べるおでん、それも仕事終わりに食べるものは一味違う。なんて言ったって疲れた体に、暖かいつゆが染み渡る。屋台も少なくなってきたこの世の中で、この高架下で食べるおでんが一番好きだ。
冬。雪に、みかんにこたつ。いろいろ思い浮かべる人も居るだろうが、俺にとってはマスターのいる屋台とおでんが冬だった。これがやりたくて春夏秋と耐え忍ぶ。別にそれまでに屋台が開いてない訳じゃない。春に焼き鳥夏に漬け物、秋のラーメンも乙だ。だけど、高架下にたどり着いたあの日をいつになっても思い出すため、俺には冬が必要だった。
「てか、マスター今年おでん出すの早くない?」
「お前毎回それ言うよな。オレが寒くなったらおでんのつゆを炊いてんだわ、文句言うでないよ」
十月も終わりごろ、今年も寒くなってくる。しかしまあ、早いよ。もう十月終わってんだもん。
「ハロウィン過ぎてさ、もう霜月なんだし良くね? オレももうおでんで加湿したくて……」
「別にガラスープでも保湿できるでしょ」
ハロウィン終わったとか言わないでよ、マジで。おじさんもう季節が一瞬で過ぎちゃうんだから、こないだ冷やし中華食ったばっかだよ。
「でもオメー、ウチのおでん好きじゃん」
「……それを言われるとぐうの音も……」
そう言って、マスターが震える手でいつものを出してくれた。玉子、こんにゃく、牛すじとウィンナー。寒さに弱いのに、マスターは絶対に店を出さない。
「ウィンナーなんてどこで食べても同じなのに、良くウチに来よるねえ」
「……なんででしょうね、落ち着くんですよ」
マスターと会ってからもう、二十年近く経つ。すっかり金曜日の夜はここに来ることに慣れてしまった。しかし、俺ももうおじさんだし、マスターはもうヨボヨボだ。
「玉子、今日ちょっといいやつだよ」
「……ほんとだ、黄身が赤っぽい」
季節が過ぎるのがもっともっと早くなれば、マスターが居なくなったその時も、すぐ忘れられるんだろうか。寒風が吹きすさぶと、決まってマスターは出汁割りを俺と一緒に飲んでいた。きっと、新卒の俺にはそれが嬉しかったんだ。
思い出を捨てきらない日々に吹く風は、哀愁を誘って病まない。毎日屋台があった場所には、花弁が舞っている。
『理想郷』
手を繋いで理想郷に行こう。僕と、あなた。
花が咲き川は流れ、土も柔らかい。そこで昼寝や食事をして、ずっとはしゃぎ回ろう。ふかふかの芝生に、大木の根の枕。そこから落ちてくる大きな果実をかじって笑い合う。それから、目を閉じると遠くから、森のざわめきが聞こえてきて……
え?大昔に森で迷子になったことがトラウマで、
森が怖い?
……あなたの理想郷も聞きたいなあ。うんうん、そこは小さな小屋が沢山立ち並ぶ草原、いいね。走り回る子供たち。犬や猫、キツネやうさぎもみんなで楽しく遊ぶ。最高だね。冬は小屋の暖炉に集まって、夏は海に。
海、え、あ。海ですか。海かぁ〜〜〜〜そっか、うんうんうん、いいよね海、うんうん。泳げない訳じゃないよ、別にうん、平気平気〜
やっぱ、手は繋がなくてもいいかな、あは……