愛なんてないと思ってた。駆け引きと損得で構成される、恋愛の皮を被った欲望の押し付け合いだけが存在してるんだと思っていた。
でも違った。愛はあったんだね。あなたの中に。
駆け引きと損得で、欲望を隠していたわたしに、あなたは純粋な愛情をくれた。普通の人は生涯持たない、本当の愛情。優しさと、思いやりで出来ている。
だからこれは、私の正直な気持ち。
わがままかもしれない。こんな私が、おこがましいかもしれない。だけど、どうしても願ってしまう。
これからも、ずっと。
何を返せるかは分からない。でも、何かを返したい。
欲望ばかりの自分を、初めて恥じたんだ。
ずっと、一緒にいたい。
言い合う時間が、好きだ。
さめられるよりさめるほうが怖いんです。
夢を見ているのなら、夢だと気づきたくない。
あなたを好きなままがいいな。
醒めてしまったら、すぐに色褪せる。夢の賞味期限は短い。
だから、とびきり長い夢にしてね。
夢を見続けたまま、次の長い眠りにつけるような。
最後の瞬間に、最高の夢だったなぁ、って呟けるみたいな。
したいことはある?
醒める前に。今しか出来ないことを。
夢の深さはいつだって変わっていくから。
人は誰も皆、それへの処方箋を持っている。
音楽だとか、恋だとか、睡眠だとか。
でも、誰にも迷惑をかけない範囲で発散するのに、もう限界が来てしまっているような気がする。なんせ、この世の不条理は多すぎる。到底一人で戦えない。いつも私を支えてくれる錠剤たちはひとつ、またひとつと病の猛威に力を失っていく。
そんな時に私を救うのは、万能薬の、ときぐすり。
時間を溶いたどろりとした液体。私の心に張り付いた不条理を剥がしてくれる。時間はかかるけど、確かに効く。
いつしか時は流れ、一瞬の不条理はそれよりもずっと強い条理に敵わず歴史に埋没していく。
セピア色になった不条理は、私の人生を暗く縁どり、いっそう際立たせる。
そうやっておくすりが効いてくるまでは。
この不条理と、一緒に生きていかねばならないようです。
怖がりだね。
幸福を失うのが怖いんだ。
幸せなはずなのに、恐怖と不安を感じてる。
下手っぴだね。ちゃんと幸福を味わえない。
きっとこの恐怖は、理屈じゃなくて、遺伝子の奥に刻まれた何かだから。私たちはみんな怖がりだ。
練習しよう。人生に身を任せて、不安になる日が来たら、その時に不安になればいい。だから今は、思いっきり幸福に抱きしめられていたらいいんだよ。
2時間目の授業が終わった。
消されていく黒板の白線を眺めながら、何かが弾けた気がした。
人気のない校門を潜り、朝来たはずの駅へ戻った。
いつもと違うホーム。
有名な名前の温泉へ、線路が伸びている。
意外と公共交通機関だけで行けるんだぜ、と教えてくれたのは誰だっただろうか。
ふとその声を思い出して、来た電車に乗った。
色とりどりの服の中で、制服の自分は浮いているようだった。
どういう顔をしていればいいのか分からない。
流れていく風景は、全然違う世界みたいだった。
4時間目のチャイムがなる頃。
そこらで見つけた足湯に足を浸す。人気が少ない。
じんわり、温かさがのぼってくる。
逃げてばかりもいられないと分かっている。
分かっているけど、そう実感するほどにどうしようもなく胸がふさがる。
思考がするする、ほどけていく。
たまにはいいか。その台詞を呟くのだって1回目じゃない。
いつもと違うことをしてみてパッと解決、なんて訳にはいかないんだろう。
それでも生きるしかないんだ。
だから。
今だけは、自分のために。