「すきだよ」
どういう意味で?
恋的に。
愛的に。
性的に。
人間的に。
ぜんぶ。
でもそれだけなのかな。
今のこの体温。上がる心拍数。あなたの潤んだ目。
そのすべてを、私の腕の中に抱きしめていたいの。
0を作った人がいる。
何かを進めたわけではないけれど、マイナスだった世界を全てリセットして、これからのプラスが芽生える土壌を作った人。
名前は残らないかもしれない。だけど、私はあなたのことを覚えていよう。
まっさらで、美しい更地を私に残して、あなたは去った。
あなたのくれた清廉なゼロ。
私はここから始めるよ。
ここから始められることへの感謝を、いつも忘れずに。
言葉を失ったままでいる。
他人の苦しみについて。
私の心は、反射的に同情している。憐れんでいる。
そして一生、彼の人の苦しみを理解することは出来ない。
理解出来る筈もないと分かっている。
だけど。孤独に耐えきれないような顔をするあなたに、同情でも疎外でも憐れみでもない何かをあげたかった。
それなのに、言葉も感情もどれも不適切な気がするのだ。すべてがあなたを傷つける気がするのだ。
『普通に生まれたかった』
あなたの言葉がまだ焼き付いている。
寄り添うことすら、上手にできない。ごめんね。
でもいつか、きちんと言葉にするから。それまでは沈黙と体温で、どうか許してほしい。
あなたのことを、思っているから。
降り積もる思い出は枯葉のように。
価値を見い出せば美しく、そうでなければ焼いて捨てられるだけ。
一枚拾って、薄い紙と本に挟んで置いておくような。
虫食いも半かけも、並べて飾りたい。
過ぎたものこそ、私をつくっている。
一年前の自分にはもう戻れないのだとやっと分かる。日記は途切れず書いているはずなのに、気持ちの感触すら思い出せない。去年の日記をめくれば、去年の私も過去の日記を開いている記述がある。過去を振り返らずには生きていけないのだ。
ページをめくる。何とはなしに苦しいと、そればかりを書くようになってしまった。前途への希望を、面白いことを考えていたいはずだったのに。
でも、過去を振り返って、自分を再生産してばかりいるのも。もうそろそろ終わりにするのがいいかもしれない。今の自分から抜け出せなくなってしまうから。
やるべきことをやれずに夜は更け、休みは終わる。いつのまにか過ぎていく。
でも、勝手に過ぎていくのを見守るよりは、「さようなら」と潔く終わらせた方が幾分かましであろう。脳裏に焼きつくいくつものさよならを思う。
自分の人生の章立ては自分で区切れる。
だから、ここからは新しい章。
うん、爽やかで、悪くない。
そんなことを考える、誕生日の前日。