窓から一筋の光が差し込んでいる。日の出だ。カーテンを閉めるのを忘れてしまったせいで、早く目覚めてしまった。
窓際に近づき空を眺めた。夜の街が次第に照らされていき、すっかり朝の顔になる。なんだか、不思議な気持ちがした。
二度寝しようと思っていたけれど、太陽を見ているうちに目が冴えてしまった。早起きは三文の徳と言うし、散歩にでも行こうか。
# 5 日の出
遠く聞こえた鐘の音が、今年の終わりを告げている。
さて、今年はどんな一年にしようか。
# 4 遠い鐘の音
あ、これは夢だ。目の前の光景のおかしさに、すぐ気がついた。私が幼少期から大切にしているくまのぬいぐるみが、言葉を話しているのだ。
「ここあだよ」
くまのぬいぐるみにはココアという名前を付けていた。ココアは愛らしく片手を振った。
「しゅうしょくおめでとう!」
「ここあもうれしいな」
ぱちぱちと拍手をされる。
「いっぱいなやんできたよね、ここあ、おへんじもできなくてごめんね」
寂しそうに俯くココア。私は昔から辛いことや悩み事があるとココアに話していたのだ。否定も肯定もせず、ただ優しく私の話を受け止めてくれた。
謝らないでと伝えようとしたけど、何故か声が出なかった。
「いつもがんばってて、ほんとうにえらいとおもってるよ」
「おはなしするのはもうさいごだけど、これだけはいわせてね」
待って。まだ行かないで。そう叫びたいけど、相変わらず声が出ない。必死に喉を振り絞っても、出てくるのは掠れた息の音だけ。
「しあわせになってね!」
ビーズの瞳に涙を浮かべて、ココアは私を抱き締めた。ふわふわの身体に、ぬくもりを感じた。
────そこで目が覚めた。
「あれ、私…」
目元を拭うと涙に濡れていた。夢を見て泣いてしまうなんて、何年ぶりだろう。なんだか懐かしい夢を見ていたような。
枕元には幼少期から大切にしているくまのぬいぐるみ、ココアの姿がある。愛らしい、くりっとした瞳で穏やかに私を見つめている。
小中学生の頃はよくココアと話してたっけ。人間関係に問題を抱えていた私は、いつの間にかココアがイマジナリーフレンドになっていたのだ。
高校生になって環境が変わり、精神的にも安定してくると、ココアが話しかけてくることはなくなった。あの頃の記憶は思い出すのも辛かったから、ついさっきまで忘れていたのに。
何故今思い出したのかは分からないけれど、今の私はもうすでに乗り越えたから苦しくなることもない。新しい会社での一日目も、頑張ろうと思えた。
# 3 ぬくもりの記憶
朝、カーテンを開けると辺り一面に雪景色が広がっていた。この地域は毎年雪がほぼ降らないため、ここまで積もるのは大変珍しい。何故だか無性にわくわくして、上着を羽織って靴下を履き、靴をつっかけ小さな雪原に飛び出した。
歩く度にぎゅっぎゅっと小気味良い音が鳴る。初めての体験に胸がはずみ、無心で歩き回った。ふと振り返ると、新雪に刻まれたたくさんの足跡が目に入る。真っ白な、雪。その光景を見て、なんの脈絡もないけれど、自分の進路のことを思い出した。高二の冬、受験まではあと一年。
志望校はおろか、将来の夢すら思いあたらない。流されるままに生活を送ってしまったせいで、志望調査書を渡される度に憂鬱な気分になる。幸いそれなりの進学校にいるお陰で環境は整っているので、自分の努力次第で何処にでも行けるし何にでもなれると思う。ただ肝心の将来の自分だけが、どうにも上手く思い描けないのだ。
いつか、春は訪れるのだろうか。冬の朝の空気の冷たさに鼻がつんとする。見上げると、分厚い灰色の雲が空を覆っていた。春が訪れるときっと雪も溶けて、色とりどりの花々が陽の光を浴びるのだろう。そんなふうに、なれるのだろうか。足跡を振り返って、よかったと笑える日は来るのだろうか。
今はまだ、分からないけれど。少しずつでも前に進んで、この雪原の先へ。
# 2 雪原の先へ
眠気を覚ますため、椅子から立ち上がった。ベランダに出て、彼女が暮らす女子寮を見つめる。3階の、右から2つ目の部屋。
夜の帳が下りて、日付が変わる頃になっても消えない灯り。彼女もきっと必死に勉強をしているのだろう。
ゼミでもサークルでも、飄々と何でもこなしてしまう彼女。しかしその裏には泥くさい努力が隠れていることを、僕だけは知っている。
この灯りが消えない内は僕も頑張ろうと、そう思える。
# 1 消えない灯り