けろぴこ

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11/10/2025, 11:00:57 PM

私はこれを思い出したくない。


入口はいって右側にレジ、正面にお菓子、左を向くと文房具が並んだ通路。
学校で使うノート、えんぴつ、消しゴム、下敷き。
すこしだけレターセット。猫のレターセット。今度の誕生日にもらうんだ。

振り返ったら胸の高さの棚があって、そこには筆箱、缶ペン。なんでかな、すごく古いアニメの缶ペンがそのまま売られてる。
ともだちのと同じペンケースがある。あの子、ここで買ったんだね。

文房具の次の棚は、縄跳びとか、スヌーピーの手提げとか、プレゼント包む可愛い包装紙とか。縄跳び以外は全部うすーくホコリかぶってる。
天井の近くの棚に、私が生まれるより前のおもちゃの箱がひっそり。誰が見付けて買うのかな。

ちいさい店内一周したら、お菓子のところに戻って来る。駄菓子、駄菓子、駄菓子。
5円チョコ、モロッコヨーグル、さくらんぼ餅、ヤッターめん。うまい棒は段ボールにたくさん。全部の味が揃ってる。
あまい匂いはどこから漏れているのかな。

スーパーボールくじが誘惑する。
アイドルの写真買っちゃおうかな。
ベーゴマ回せるかな。大きなメンコが当たるかな。



小学校前のちいさな駄菓子屋。
生まれた土地には駄菓子も、ノートも、必要な子供が年々減って、私たちの郷愁をこれでもかと詰め込んだ場所は無くなった。

もう無いあの場所を思い出すたびに、苦しくて苦しくて寂しくて、私は記憶を閉じたくなる。消したくなる。
しあわせな思い出なんてものは、たまらなく寂しいだけなのだ。


『寂しくて』

11/9/2025, 9:55:49 PM

あの子はいつでもゴキゲンと不機嫌の狭間にいる。

 心の真ん中にごく細い、あるいは狭い境界線があって、右へ揺らげばゴキゲン。左へ揺らげば不機嫌。風が吹いても嬉しくて、そうかと思えば反動で次の瞬間には口をへの字に曲げる。
 恐るべき気分屋。

 Instagramで再三流れてくる流行りのドーナツを食べるあの子に同行する。
 あんなものはね、広告屋が作り上げた幻惑だ!なんて眉根寄せて息巻いてたのに。
 ぽってりとしたクリームのてっぺんに真っ赤なドレンチェリー。ひとくち食べたらもう、目玉が宝石みたいに輝いてる。
 玩具齧ってるみたいだな。
 ひとくち食べるかと問われて、甘いものはちょっと……と断ると、予想はしていたが石ころみたいな顔してる。
 しかしこちらも慣れっこだ。
 ドーナツ店から連れ出して、公園へ。

 鳩に囲まれゴキゲンになり、鳩にしつこく餌を催促され不機嫌になり、鳩を脅かし大いに笑い、鳩がいなくなった公園の真ん中でぽつんとさみしがってる。

 わたしはあの子をだきしめよか、つきはなそか、決めかねたまま、真ん中の境界線に立ち尽くしてあの子をみてる。



 『心の境界線』