ベルの音
私がまだ幼い頃、4歳か5歳ごろ
私の家は二世帯住宅の2階建ての家で1階には母方の祖父母が住んでいました。
クリスマスの日の夜、母さんと父さん、兄、姉とケーキやチキン、他にもクリスマスっぽい食べ物が並べられたテーブルをみんなで囲んで楽しく話しながらご飯を食べていました。
昔の実家は少し古い建物で今のようなインターホンなどはなく、扉につけられたベルを鳴らしてもらうような玄関だったのですが、2階でご飯を食べているとその玄関のベルが鳴ったのです。
冬の夜に誰かが来たのを知らせてくれました。
私や兄、姉は『誰だろう??』なんてことを言いながらキョトンとして、互いの顔を見合わせました。
勘の悪い私たちに痺れを切らした母は、父の背中を小突いていました。
父は厳しい人ではなかったのですが、普段あまり冗談を言ったり、笑ったりする様な人ではなく、とても真面目な人でしたが、そんな父が下手くそな作り笑いをしながら、
『サンタさんが来たんじゃないか? みんな玄関に行って見 ておいで』と言いました。
私はそんな父の顔を見て、幼いながらに、なんとなく感じ始めていた"サンタさんはいない説"が確信に変わってしまいました。
ただ、父の普段見たことのない笑顔を見てサンタはいないなんて事は言えずに素直に玄関に行き、置かれていたオモチャを手に取り、『サンタさんからのプレゼントだぁ!!』と
サンタさんを信じるフリをしました。
きっと、サンタの有無を知っている兄や姉は喜ぶ私を見て、
『サンタさん来てくれて良かったね!!』と笑顔で声を掛けてくれて、お互いのオモチャを見せ合いっこして、クリスマスを祝いました。
ふと、父と母の顔の方に視線を向けると2人は優しい笑顔で私たちを見ているのに気づき、思わず『プレゼントありがとう!』と言ってしまいました。
父は急に真顔になり、『サンタさんにお礼を言いなさい』と
言って背中を向けてしまい、私はもう少し父の笑顔を見ていたかったので少し、寂しい気持ちになりました。
ただあの時、私が見た父の優しく笑った顔は今でも覚えています。
今はもう実家も新しくなり、ベルの着いた玄関はありませんが喫茶店などの扉を開けるときに鳴るベルの音を聞くと、ふとあの日のことを思い出します。
父さんと母さんが子供の夢を守ろうとしてくれたあのクリスマスは一生忘れないと思います。
そして、孫たちの為に恐らく玄関にこっそりとプレゼントを置いてベルを鳴らしてくれた、じいちゃんとばあちゃん。
みんなありがとう。
『寂しいなぁ』
そう呟く彼女の顔はどこかイタズラっぽい顔をしていて、
決して心から寂しいと思っている人間には見えなかった。
だが、確かに自分も少し携帯の画面と向き合いすぎていたかもしれない。
『ごめんね』
自分の落ち度はわかっているが、彼女の発言をあまり真剣に受け止めずに軽く謝った。
悪気はなかったのだが、目線を彼女に向けるわけでもなく画面を観たまま謝罪したのが悪かったみたいだ。
その後のことは言うまでもない。
塵積だったのか次から次と彼女からの文句は出るわ出るわで止まらない。
反撃をしていたのも最初だけで、次第にこちらは何も言えなくなっていく。
キッカケなんて自分では大した事ではないと思う。
ただ、彼女は家から出ていってしまった。
1人だけになった部屋には、ついさっきまで彼女がいた事を見せつけるかのように面影だらけだ。
作りかけのオムライス
自分は決して読まないであろう類の雑誌
新作なんだと言って嬉しそうに買っていた化粧品
出ていってから暫くして、携帯に通知音が鳴った。
さっきまで食い入るように観ていた画面だか、今はあまり観たくない。
表示されていたのは自分と彼女が写っているアイコン、彼女からの連絡だ。
連絡を確認し、なんて返事をしたらいいのか長考していると
『もういい、さよなら』
突然のお別れ宣言。
愛想が尽きたんだろう。
自分の不器用さが嫌になる、ごめんと言えばいいのに今ではそれも嘘くさく聞こえてしまうのではないだろうか。
『寂しいな』
誰もいない部屋に仰向けに寝転がる自分がポツリと呟こうとも、誰かに聞こえるわけでも誰かが答えるわけでもない。
ただ付けっぱなしになっている換気扇の音だけが無音の部屋で響いてる。
部屋に戻ってきて換気扇を止めてくれる事を期待して、
寂しい男は消さずにいる。
作りかけのオムライスは完成することもなく、ただ寂しく
黙って冷めていく。
今年も一緒に年を越せそうで幸せです
大事な人たちと1年を締めくくれるのは嬉しいです
これからも冬だけといわず、春も夏も秋も一緒に感じて
少しずつ、歳をとっていくあなたの隣で歳をとりたい
『やぁ、最近どう?』
先輩がフワッと唐突に話しかけくる。
特に興味もないだろうに、何となく話しかけてきたぐらいだろうか。
『まぁ、、変わりないっすねぇ』
話の始まりがあんまりなもんで、自分も、パッとしない答えになってしまう。
『そっかぁ、まぁ毎日何かあっても大変だもんなぁ』
先輩はタバコを吸いながら天井を見上げて言う。
僕たちは会社の喫煙所でいつも顔を合わせるぐらいの仲だ。
会社は一緒でも仕事上あまり関わりを持たない他部署の
先輩、後輩みたいな関係だ。
ただ、喫煙所で顔を合わせると特に用事がなくても話す。
『そーいやこの前、タバコやめるって言ってなかった??
やめないの??』
また、急に話題を振ってくる。
『確かに言いましたけど、無理でしたよ? 二日間はやめられたんですけどねぇ、、仕事の休憩の時、タバコを吸わなかったから何をしていいのかわかんなくなっちゃって』
半分は本当だ。
もう半分は・・・
『わかるぅ〜、タバコ吸わないんだったら休憩いらないから
早く帰りたいよねぇ〜』
先輩はまだ天井を見てる。
もう半分は先輩と話してる、この何とも言えない・・・
とりとめもない話がなんとなく落ち着くんだろう。
特に意味はないけど何となくこの時間が好きなんだろう。
会社の喫煙所っていろんな仕事の情報が転がってるけど、 先輩の話にはなんの情報もない。
だからこそ、自分には心地よいのかもしれない。
タバコ、やめられないなぁ
12月になり、外歩く人たちの服装もそれらしくなってきた。
コートやダウンを着ている人たちを見ると、今年ももうすぐ終わりだなんて毎年感じちゃってる自分に重ねてきた歳を感じる。
雪が積もったら子供は喜ぶだろうなぁ。
大人はあんまり嬉しくないんだけどもさ。
でも子供たちが朝起きて、カーテンを開けた時に雪が積もってるのを見た時の無邪気な笑顔ったら。
歳をとったからこその新しい喜びなのかもしれない。
雪、早く降らないかなぁ。