口笛ふけば
枝葉のすみから すみまで絶え間なく
林の喧騒 巻き上げて
暖を根こそぎ攫ってく
お願いだから樹皮は剥がしてあげないで
窓のうちから叫ぶ声
そんなところから聞こえないわ
あなたも支度を始めたほうがよろしくて
【木枯らし】
太陽の光を浴びて
自然界に溶け込む。
「ずっとここにいればいいのよ」
となりで彼女はひざを抱え、傾けた。
裾に縫いつけられたフリンジが流れるように、
髪束が空を透いてゆく。
「そうしたら悩みごとなんてなくなるでしょう?」
彼女の視線と、
「悩むことは嫌いじゃないんだ」
綿毛が交差し、遥か彼方へ。「生きている感じがするから」
「その生きているっていうのは、存在意義のようなもの?」
彼女が姿勢を崩して「辿り着ける場所なんて無いわ」「ここにいてくれるだけでいいの、それだけで」
フリンジがばらばらと散る。
「充分よ」
潤いの目。唇。地面に縫いつけられた手、降りてくるカーテン。
空が見えないと不安になった。
「もう行くよ」
別れを告げて
幕引きを止める。
「……手を離してくれないかな」
空には薄い雲が掛かっていた。
「あなたのことを語り継ぐわ」
「どんなふうに?」
「病弱な幼なじみを捨てて村を出た、最低で、夢見がちな英雄。彼は紫の美しい瞳をもっていたって」
思わず振り返ると、彼女は陽だまりから手を揺らし微笑んでいる。
【美しい】
天然由来の油でギトギト
ほんのり甘いベール被せて
丸めて見せた綺麗な面
どうぞお好きに
白餡 黒餡 ときには辛味
知らない用語を使わないで、難しい意味を解説しないで、
噛み砕いたら歯が欠けちゃった
極彩色のタールと化した
複雑で単調なマーブル模様
【この世界は】
何度も何度もアラームかけた
眠くないのに起きあがるのは十分前。
玄関に置いてあったのに忘れた
鞄に入れては別の鞄を手に出掛ける。
人生うまくいかないどころか
日々の営みにつまずいている、
人間讃歌
なんともいじらしい、
ヒトは愛される素質があると。
愛をもとめて進化しながら
愛をみつめて退化してきた。
イヌやネコ、空や海
知らないだれかの愛からうまれ
何億光年と謳われている
問いかけたって返ってくるのは
あなたは愛されているとの詭弁ばかり
【どうして】
終点のない列車に乗り込んで、ただ揺られていた。
切符は早々に回収された。
乗務員がいうには「リサイクルの為です」と。命はまわす必要があって、終点がないのもその為だという。
外の景色はよく移り変わった。
眠気に身を任せるたびに。ゆえに目を覚ますたび、別世界へと入り込む。
カラフルな気球が晴空に浮かんでいた。かと思えば雪枝の山中を走っている。かと思えば金銀、小魚の群れが泳ぎ去り。かと思えば……
終わりなく眠ってしまう。
不思議とからだの疲れはなくて、もうどれだけの駅を過ぎたのか、はたまた停まっていたのか定かでない。
心地良く。
仮に今「降りてください」といわれても動けそうにない。
乗務員が巡回にきた。手帳のようなものを開き、切符を見せろという。
切符はもう渡した。
降りる予定の駅はない。
このように伝えると、相手は頁を捲りながら無言でしばらく立っていた。そうして何度目かの景色が過ぎた。
「リサイクルの為です」頁を捲り終えた乗務員がいうには。
「いちど本来の姿に戻し、さいど命をうみ落とす為の」
流されてゆく景色と眠気。噛みころす欠伸。
相手は繰り返す。
「再生の為です」
言い直すように強く。
まぶしさに車内が染まるなか、白、黄、赤などの光をみた。
サイセイのためです。
また言い直すように。
それは「再生」というよりも、別のなにか、響きとしては終着が始発に変わる瞬間に近いなにかを感じさせる。
【夢を見てたい】