あの日の温もり。
始まりはある雨の日だった。
私はひとり寂しく雨に打たれていた。
そんな私をみて、ふわふわのタオルをくれた。
「おはよう。」
今日も私にあいさつする。
だけどそいつは朝早くどこかに行って、夜遅くに帰ってくる。
帰ってくる時あいつはとっても疲れた顔なのに、私を見ると直ぐに笑って私に
「ただいま。」
って言ってくれる。
でもたまに丸一日一緒に居れる日もあったりする。
そう言う日は一緒にテレビ見たり、昼になったらご飯を出してくれる。
毎日こう言う日が続けばいいのに。
今日はちょっと珍しい所に行った。
知らない白い服の人と会った。
チクチクする痛いのをされた。
いつものお出かけは好きだけど、もうあそこには行きたくない。
だけど、その行きたくない所に最近よく行く。
私もあんまりはしゃげない。
行きたくないところにいっぱい行っているから?
最近あいつは悲しい顔をする。
でも近寄るといつもの笑顔に戻って、優しく撫でてくれる。
今日もあいつが構ってくれる。
でも私は動けない。
だけど撫でてくれるあいつの手は暖かかった。
「にゃーちゃんはあったかいねぇ」
初めて、行ってきますを言った。
だけどその時、あいつは泣いてた。
あいつの所にまた
「ただいま」
を言いたかった。
「にゃーちゃん、おやつだよ」
今日も私はお供えする。
にゃーちゃんが好きだった猫のおやつ。
だけどあのとき聞こえた可愛い返事はない。
そんな事は分かっているけど、
分かっているけど、にゃーちゃんを撫でたときの温もりを思い出して、今日も私は
にゃーちゃんが笑う写真の前で泣いてしまう。
cute!
「あー私って、やっぱりかーわいい♡」
いつものようにそう言うのは、私の友達、結奈。
結奈はいつも自分が可愛いと言う。
だけど結奈はあまり顔面偏差値は良くない…いや、下の中って所…。
でも、私は結奈の親友だから正直に
『結奈は可愛くないよ。』
なんて言ったら絶対絶交になっちゃう!そんなの嫌!
とか言ってるけど、私も人の事言えない。
私は自分で言うのもなんだけど、イケメン顔って言われる。それに背も高いからみんなから「プリンス」と呼ばれるようになってしまった。
こんなの嫌。私は、「お姫様」になりたかったんだから。
いつも可愛い服に憧れてたけど、
「未菜ちゃんには似合わないよ」
体操着袋のセンスだって、
「こっちの方が未菜ちゃんぽいよ!」
背が高いから、
「王子様は後ろ行ってくださぁ〜い笑」
本当は…、本当は可愛いものに囲まれて、可愛い服を着たりしたかったけど、この顔でこの髪型…、どうあがいてもー、、
「未菜!」
「な、なに?」
「なんだかぼーっとしてる?」
「あはは…そうかもね」
「ていうかこれでないの?これ!」
「これってー、」
【全校生徒参加OK ファッションコンテスト
2人1組になってお題にそったファッションをしよう】
ファッションコンテスト…
【お題・プリンス、プリンセス】
「プリンセス…」
「やってみたいんでしょ、プリンセス役」
「え、な、なんで…」
「幼馴染だし!わかるよ!それに私もプリンス役やってみたいし!」
「結奈が、プリンス、」
結奈は可愛い系を目指してるんだと思ってた。
「組もうよ!私たちで!」
「うん!」
女の子だから「cute」…つまり、「可愛い」に拘らなくてもいいと思う。
そして、格好いい顔だからって言って可愛いものが好きじゃないかって言ったら、そうでもない。
実際に私がそうだったしね!
「続いては、2年A組、プリンス佐藤結奈さん、プリンセス山田未菜さんです!」
小さい頃から、赤いカーペットを可愛いフリルが付いたドレスを着て歩きたかった。前はみんなのいろんな気持ちが乗った視線がちょぴっといたいけど、今はもう気にしない!
だって「私」は「私」なんだから!
記録。今日も私は日記を付ける。
記録を付けてみたいと言ったから、
日記も記録と同じようなものでしょう?
そう言われてお母さんからもらった鍵付きノート。平成の香り漂う真っピンク、目が大きいゆるキャラ、そして四葉のクローバー。
こんなのいらないよって言いたかったけど、その時の私の所持金は100円玉ひとつ。買いたかったけれど、100円でかわいいおしゃれなノートは買えなかったし、しょうがなく平成ノートを貰ったのであった。
そして小学生、中学生、高校ー、、日記を書く頻度が少なくなっていった。
そして今、私は大学生。
好きな人ができた。
一個年上の佐藤柚さん!この前筆箱拾ってくれて、そこから好きになっちゃった。
私はそのとき、誰にも取られたくなかったから、好きだと気づいてから2日後に告白した。
「好きです!!つ、付き合ってくださいっ」
鼓動が高まる。目を瞑る。
「俺も、好き!」
え…!
「なーんて、言うとおもったぁー?」
え?
「お前みたいな標準顔!標準体型好きじゃ無いわ!はぁーぁ!もっとスタイルが良くて可愛かったら良かったのになぁー?」
そんな…
その日の帰り道は、凄く一歩一歩が重い気がした。まるで、身体に鉛を付けている気分。
家に帰ってもベッドに寝転ぶだけで何もしない。
何もしたくない…
失恋って、こんなに辛いの?
それなら、恋なんてしなければよかった。
ドサッ。
痛…何これ?
「3月18日!(晴れ)今日は、どきどきワクワクの、卒業式!!凄く緊張したよ!あと、めっちゃ可愛い卒服!毎日着たい笑笑」
「3月20日(曇り)昨日は日記をつけるのを忘れちゃったぁ!でも、昨日は友達と遊んできた!めっちゃ楽しかった!」
これ…
「4月10日(晴れ)今日は、中学校の入学式。全然雰囲気が違うよー笑あと制服!あんまり可愛くない!(失礼)あー勉強嫌過ぎるぅ」
「8月7日(曇り)今日、ショップに行ったら咲先輩がいた!目合っちゃったし、話しかけてくれた!咲先輩かっちょいい–!!」
「8月9日(晴れ)また咲先輩と会った!なんか好きになった(?)好きな人に理由はいらないよね♡」
「9月8日(曇り)告白したけど振られた。」
日記…前付けてたやつ。
変な絵があったり、忘れてたり。
ふふっ…
少し、楽になったかも。
「ちょっと書いてみようかな。」
日記って、なかなか続かない。
でも「記録」なんてそんなのでいい気がする。
事細かく書かなくても、書くのを忘れても。
その「記録」がいつか役に立つなら。
「今日、いいことあったんだよね〜日記に書いちゃお!」
また私は今日も、記録付けを忘れる、かもしれない。
冒険なんて嫌いだ。
どうせ失敗するんだから、失敗するのだったら最初から手を引いていた方がいい。
そう思うようになったのは、小学生のころ。
朝会で、クラスから1人ずつだれか将来の夢について発表することになった。僕はその時、やりたい、やってみたいと思い、手を挙げた。僕以外誰もいなかったから僕が発表する事になった。朝会の日が近づくにつれて、緊張、どきどき、色々な感情が入り混じって…
そして迎えた発表の日、僕は将来「冒険家」になりたいと発表した。冒険家になって、色々な景色を見たりしたかったのだ。そして発表が終わった瞬間、くすくすと笑い声が聞こえた。あれ、僕変な事言ったのかな、よく分からないまま朝会が終わり、教室に戻った時。
「お前なんかが、冒険家になれるわけねぇじゃん!」「夢見野郎(笑)」
え、僕って、そんな?
くすくす、くすくす…
僕はもうその時、決めた。“冒険”なんてしない。ってそしてそのまま僕は生きていった。
「ねぇ、作文の作り方教えて!!」
前の席のギャル、授業態度は上の下ってとこ。今僕は高校生、つい昨日作文の宿題があった。
やっぱりやってないんだ。偏見としか言いようがないけど、そう思っていた。
「別にいいけど、僕教えるの下手だよ」
「それでもいいから〜!!」
しょうがないのでギャルに教える事にした。
「ね、だっさい眼鏡くんー」
「夢見です」
「夢見?ゆめみんでいい?」
はぁ、ギャルと話すのはどうも疲れる。
「ゆめみんさぁ、役員とか書いてるけどさぁ本当は違うっしょ?」
なんで、知ってるんだよー・・と言ったら否定にはならないし、まぁでもいいか、僕がどうなろうと。
そうして僕は僕の事を全て話した。冒険家になりたかった事、冒険するのをやめた事。
「ふぅん。でもさぁ、ゆめみんはゆめみんでいいと思うよ?冒険家とか、格好いいじゃんー」
ギャルでも、そうゆう事言うんだ。僕はすっかり偏見に惑わされていた。
冒険、してもいい、のか、?
でもまた、何か言われるかも…いや、そんな事どうでもいい。発表した後にでも考えよう。
発表当時の日。僕はギャルの後だった。
「がんば、ゆーめみん」
「うん」
僕にはもう怖いものは何も無い。
だって僕の夢はー・・
「僕の夢は、」
「冒険家です。」