「また会いましょう」
見えないものが見える事を人に言ってはいけないと、物分りのいい俺はなんとなく気がついていた。
でもあいつらは、俺が見えることをわかっていて、俺に構ってもらおうと寄ってくる。
ただ、この神社にいる時だけは平気で。静かで。
何か、忘れている気がする。
手を引いてくれた、朧気な記憶。
誰だっけ。
「意味が無いこと」
朝は身支度、昼は仕事、夕方は肉を食べる。夜は本を眺めて...。
これを何日繰り返しただろう。
冷たい布、錆びたナイフ、読めない字。
意味を求めちゃいけないことはわかってる。だけど継続は心地がいい。
うんともすんとも言わないラジオのスイッチを押して、中途半端な掛け布団を被って寝転がる。
動物の毛をつめると暖かいらしいから、食べた動物の羽や毛を色々入れてみてるけど...まだ全然足りないらしい。
生きてる、今呼吸がある、体温があって、自分で時間を感じられる。
僕自身に意味は無くてもいい。
「愛言葉」
君が望むから、僕は君への愛の言葉を吐く。
僕の本音なんて1つものっていない言葉は、僕にとっては空っぽで、君にとっては喜びで。
付き合ってもいない僕らは今日も、そんなやりとりをして。
君とずっと居たいけど、君と愛を囁きたくない。
君のわがままを聞くたびに僕は嘘をついて、君の喜ぶ偽りを重ねて。
それがどんなに残酷か、君はきっといずれとても傷つくんだろうな。
「友達」
どうせ何を言っても僕の言葉なんて虚言だ。
僕は僕の視点でしかものを言わないんだから。
だから君だって僕から見れば虚言だ。
僕の言葉なんて何も信じなくていい。
君の言葉も信じない。
このくらいじゃないと僕は息が出来ないんだ。
僕は君が、僕を傷つけると信じて止まないんだから。
「声が枯れるまで」
別人のように憎しみに満ちた目をした君を見て、僕は動揺した。
君の手が握りしめてくしゃくしゃになった楽譜と、掻きむしられて赤い爪痕だらけの首。
掠れた息で必死に何かを伝えながら、君がこちらに歩いてくる。
うん、うん、歌いたかったね、でも歌えなかったんだね。
僕の傍に来て崩れ落ちた君の泣き声は、やっぱりひとつも音にならなくて。
声を枯らすことも叶わない、君の努力は行き先を失った。