〚泣かないで〛
「泣かないで、君の泣いてる顔は見たくない」
僕の口から出た無責任な言葉
この言葉は優しい君の心に深く傷をつけた
君に泣くことを無理矢理我慢させ、痛々しい笑顔を作らせてしまう、悪魔のような言葉
〚冬のはじまり〛
きっと冬の寒さと夏の暑さがなかったら、秋の心地よさには気付けなかっただろうな
そんなことを感じる冬のはじまり
〚終わらせないで〛
僕の目の前で、君は鮮やかな血しぶきをあげた
倒れそうな君の体をとっさに受け止める
僕の脳は、君の死に対する拒絶で塗りつぶされた
「いや」「うそ」など単純な言葉が口から本能的に漏れ出す
そうしている間にも、君の意識は遠のいていく
言いたいことがたくさんあるのに、僕の混乱した脳はそれを許さなかった
もっと時間がほしい
まだ君の死を覚悟できていない
君に言うべき最後の言葉も見つかっていない
心の底からこの時間を終わらせないでくれと神様に願った
だがそんな願いが叶うはずもなく、時間は無情に経っていく
君の意識が途切れる直前、僕は自分の頼りない肉体に力を入れ、胸の底から無理矢理言葉を引きずり出す
「おつかれ」
〚愛情〛
私には付き合って半年の彼がいる
私は彼に目一杯の愛情と、私のすべてを捧げた
毎日「好き」とちゃんと口に出して伝えるなど、彼を満足させる努力はしてきた
でも、そんな私とは対照的に彼は素直に感情を見せるような性格ではなかった
今まで私が付き合ってきた男性と比べても言葉少なだったし、正直何を考えているのかよくわからなかった
私は彼のそんな性格も個性の範囲内として受け入れていた
だが最近彼のぶっきらぼうな態度に嫌気が差してきている自分に気がついた
それに気がついてしまったためか、彼のする仕草全てに嫌悪感を抱くようになった
その後度重なる口論にお互い意気消沈し、別れを決意する
失恋の寂寥感や喪失感が心を蝕む
ただ、それ以上に解放感で満たされていた
さっぱりした脳は、今までとは違う客観的で俯瞰的な考えを浮かばせてくれる
私は彼と付き合っていた時、私と彼の愛情に不平等が生じていると思いやきもきしていた
でも、恋というのはもっと曖昧で漠然としているものだと思う
だから、どっちのほうがとか、フェアじゃないとか、そういうのを考える時点で本物の恋ではないのではないか
今までの恋に思いを馳せ、それにそっと蓋をする
これからは無条件の愛を捧げられる人を探そう
そう心に決めた
〚微熱〛
私は軽度の発達障害を抱えている
軽度と言ってもやっぱり会話に溶け込めなかったり、間違いを犯すことがよくある
その度に「私は発達障害だから仕方がない」と自分を納得させようとするけど、軽度という言葉が邪魔をする
「軽度なら障害ではないでしょ」
「軽度なのに障害者づらすんな」
周りはわかってくれない
自分でも受け入れられない
そんな心の微熱を抱えながら、今日も生きていく