ああ、溢れてしまう。零してしまう。
私のような星屑には多すぎたのです。
持ちきれなかったのです。地上の人々の願いは。
私の小さな身体では、到底支えきれませんでした。
ああそれでも、手いっぱい持ちましょう。
知らない誰かの願いを叶えるために、
拾える限りの全てを持って。
ああ、熱い、熱い、耐えきれない、耐えきれない。
私にはやはり無理だったのです。
知らない誰かよ、ごめんなさい。
私には無理だったのです。
ああ、溶ける、とける__
「星に願って」 白米おこめ
行きつけの、小さな花屋がある。
帰り道からはちょっと外れた、隠れた場所に。
いつも同じ人が甲斐甲斐しく水やりをしているので、
きっと一人で切り盛りしているんだろうな、と思う。
俺は、無理に話しかけてくる訳でもなく、ゆっくりと
考える時間をくれるこの人の雰囲気が好ましかった。
趣味の生け花のために、
季節の花をいくつか買って帰るのが月末のルーティーンで。
もう一つこの花屋の良いところを挙げるとするならば、
花束を一つ買うと、おまけとしてそれとは別に
新しい花を彼女が一輪選んで、包んでくれることだろう。
最初に買った時は、ネリネ。
ある日は、「似合うと思いまして、」なんて月下美人を。
誕生月には、調べたであろう誕生花を渡してくれて。
今日の俺の手元には、「新入りです」なんて言われた
ミモザが揺れている。
家に帰った後も、ルーティーンは続いている。
貰った一輪を丁寧に取り出して、麻紐で縛って吊るす。
彼女が選んだ花が枯れてしまうのがどうにも惜しくて、
なんとか調べて辿り着いた、ドライフラワーのやり方。
初めて会った時の花からずっと貯めていて、
きゅっとリボンで縛れば、彼女が創る花束のようで。
ミモザが枯れない花になったら、
いつか、ドライフラワーの花束を、彼女に。
「永遠の花束」 白米おこめ
教えてって、言えたらいいのに。
食べ物とか飲み物とか動物とか…君の好きなもの、何でも。
色々知っているような、知らないような気がするから。
俺の知ってる君は、いつだって予測の範疇で。
少し離れたところで、時々隣で、
ちょっと見えただけの好みのかけら。
自販機で買ってるのは、あまい炭酸が多くて。
コンビニだと、ツナマヨのおにぎりをよく選ぶ。
猫が好きだけど猫アレルギーなんだと、しょんぼりして。
やっぱり、知っているようで知らないと思う。
だから俺に教えて。
『まだ知らない君』 白米おこめ
日陰ぼっこをしよう。
太陽の光は、僕達には眩しすぎるから。
灰になってしまうだなんて冗談を言い合いながら、
太陽から隠れるように小さな樹の下に集まろう。
木陰で寄り添って、内緒話をしよう。
眩しさに目を細めると、
君の表情がわからなくなってしまうから。
ペットボトルの水で喉を潤しながら、
こっそり持って来たタオルで汗を拭こう。
束の間の休息。二人だけの時間。
一本しかない木の幹に、もたれるフリをして寄り添おう。
小さな葉の影にすっぽり埋もれるように体育座りをして。
グラウンドで揺らぐ陽炎を、今だけは遠いものとして。
そっと、日陰で並んで眺めていよう。
「日陰」 白米おこめ
カサって音。
持ってるだけで崩してしまいそうな音。
君の綺麗な箸遣いが見たい。
焼けた私の匂いを、
変な香りだと思いながら
その手でそっと掴んで
崩してしまえ。
「そっと」 白米おこめ