白米おこめ

Open App
10/29/2024, 1:05:04 PM


もう一つの物語。
例えば、テスト前にちゃんと勉強した私の物語。
例えば、あの時に謝れた私の物語。
例えば、昨夜潰した蚊の物語。

今朝割った卵のひよこの物語。
電車に飛び出したあの人の物語。


あったはずの物語。私が書き損じた物語。



もう一つの物語。
例えば、補修の時間で仲良くなった友達との物語。
例えば、謝れなかった後悔を覚えている物語。
例えば、昨夜殺し損ねた蚊の物語。

朝食に目玉焼きを食べた私の物語。
ホームに花束を添えて生きる私の物語。


なかったはずの物語。私が書き連ねた物語。



どちらも、等しく。



「もう一つの物語」 白米おこめ

10/28/2024, 10:06:53 AM



帰宅途中の水たまりを踏んだら
そのまま沈んで世界から私がいなくなり
暗がりの中でただ遠くなってゆく信号の揺らぎをみている。



「暗がりの中で」白米おこめ

10/28/2024, 9:51:18 AM

ある日、夕食の終わり時。
お皿洗いの最中に、紅茶の香りが鼻をくすぐり、
私はふと窓の外を見た。

窓の外から、風に乗ってその香りがした。

かちゃりと、洗い流した真白い皿を立てかけて。
泡のついたものは放ったまま、
ベランダのテラスドアに手をかけた。

からからと外へ出ると、ふわりと。
紅茶の香りが、夜の冷えた空気に纏っている。

お隣さんの電気は消えていた。
下を覗き込んでも、ただ黙った草木が揺らぐだけ。

ここにあるのは、遠くのお月様と、小さな星々。
私はふと気になって、部屋の奥の、引き出しの更に奥から、
埃を被った望遠鏡を取り出した。

軽く払って、狭いベランダで三脚を立てて。
屈んでレンズを覗き込んで、月を探す。
光のある方へ。上へ、上へ。

ぱっと目の前が白く光って、ピントを合わせると。
月の光だと思ったものは、
ふわふわとした毛並みに変わって。


そう、一匹のうさぎが、紅茶を飲んでいた。


…と、思ったが、もう一匹うさぎがいた。
何やら慌てて飛び回っている。

布巾を持って、小さなクレーターの周りを
あちこち拭いている。


「零したのかな」


ああ、だから。

「だから紅茶の香りがするのね」




『紅茶の香り』白米おこめ(改変)

10/22/2024, 6:29:01 PM

貴方の声に、恋をした。
始まりはきっとそうだった。

優しくて落ち着く、貴方の声が好き。
表情や行動が冷たくたって、
声を聞けば照れ隠しだとすぐに分かる声が。

私、貴方の声が聞きたくて、ずっと隣で過ごしていた。
そうしたら、貴方と手を繋いで過ごす時間が好きになった。

貴方の声が聞きたくて、貴方の部屋に押しかけて。
そうしたら、貴方と一緒に暮らすことになった。


私、貴方とずっと一緒に居たいと思ったの。


時が経って、私と貴方の手が、皺のせいで
ぴったりと重ならなくなっても。

貴方に会うために、
病室の番号を覚えなければならなくなっても。

たとえ、吐く声が言葉を紡げずに、
唇さえも酸素マスクに覆われようとも。

私達、声が枯れるまで、愛し続けよう。

「声が枯れるまで」 白米おこめ(遅刻)

10/20/2024, 3:11:56 PM

 文章の始まりはいつも、一マス空ける。
それって、何でだろう。
ちょっと、奥ゆかしさを出すというか。
一歩引くことで「今から始まりますよ」っていうのを
伝えてるのかも。
読んでいる人が、読むぞ、っていう切り替えができるように
っていう、配慮なのかも。

調べれば出てくるのかもしれないけど、
まずは自分で勝手に考えてみる。
絶対に違うだろう、絵本の中のような理由。
それを想像できる自分の単語の蓄積。

なんだかんだ、まぁ、悪くないと思うんだ。

「始まりはいつも」 白米おこめ

Next