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8/4/2023, 11:25:30 AM

つまらないことでも

 ——毎晩寝る前に、今日あったいいことを数えるの。お昼ご飯がおいしかったとか、帰り道で猫を見かけたとか、どんなにつまらないことでも。
 それが前向きに生きる秘訣だと、小学生のときの親友が教えてくれた。私はその晩からさっそく実践してみたのだが、もともと飽き性のため三日と続かなかった。
 あれから私たちは大人になって、疎遠になって、再会したのは彼女の葬式だった。よく晴れた夏の日だった。
 帰り道、私は彼女の最期の晩を想像した。その日あったいいこと、一つも思いつかなかったのかな。でも、次の日だってあったのにな。次の日がだめならその次の日だって。そうやって騙し騙し生きていれば、どんなにつまらないことでも、いいことだと思える日がまた来たかもしれないのにな。バカだな、あいつ。

8/3/2023, 3:45:57 PM

目が覚めるまでに

 彼が私を振って私の友人と付き合い始めた。
 友人は特別美人というわけではないけれど、色白で楚々とした佇まいの魅力的な女性だ。細やかな気遣いができて、頭の回転が早いから一緒にいて楽しい。彼が何かの拍子にうっかり惚れてしまったのも仕方がないと思う。
 唯一彼女に欠点があるとすれば、それは彼女の恋人は彼を含めて七人もいるということだろう。
「なんていうか、ゲーム感覚? 別に誰のことも好きじゃないよ。私、男の人嫌いなの」
 たしかに相手を同じ人間だと思っていたらできない所業だ。何も知らずに舞い上がっている彼は少々不憫だけれど、私はにやにや笑いを抑えきれない。
 いつか目が覚めるときまで、せいぜい幸せな夢でも見ていろよ。

8/2/2023, 3:53:08 PM

病室

 夜中にふと目を覚ますと、ベッドの横に母の姿があった。四年前に他界した母だ。
 母は私の顔を見下ろして、微笑みを浮かべている。
 これは夢か幻、幽霊か。無意識に手を伸ばすと、母がその手を優しく握った。触れられる。不自然なほどリアルな皮膚の感触。違和感を覚えて手を引っ込めようとすると、思いのほか強い力で引っ張り返された。私は母に導かれるまま、ベッドから下りて病室の扉をすり抜けた。おかしいな、病室の扉は閉まっていたのに。私はこれからどこへ連れて行かれるのだろう。