tranchran

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1/7/2024, 1:42:47 PM

 外は白銀の世界。私は厚着のせいでもこもこ。心配性のパパは、セーター、コート、マフラー、次々と私を包み込んでいって、ゆきだるまみたいな女の子のできあがり。
 白い息を吐きながら、庭を歩く。まっさらな雪にボア入りのブーツで一回り大きくなったわたしの足跡がついていく。冬って素敵。パパの愛情に包まれるみたいにぽかぽかしながら歩いて行く。
 同じようにもこもこになった小さな雪だるまが後から現れた。もこもこの弟ゆきだるまが倒れないように、パパがそおっとついてくる。
 よちよち歩く三つの陰が、キンと冷えた雪景色の白いキャンバスに映えた。

『雪』

12/15/2023, 2:14:07 PM

 わたしはずっと雪の日が嫌いだった。
 雪の日、街を歩くとあちこちの家から暖炉の火のあたたかな匂いがする。それと同時に夕飯のおいしそうな匂いも。それぞれの家庭の匂い。家族のいなかったわたしは道を歩くたびにそれを思い知らされる。わたしの知らない、家族の温かさ。雪の日は、それが特に感じられて嫌いだった。
けれども今は、雪を待つようになった。雪の日の温かさを知ったから。雪のちらつく寒い帰り道、その先に、家を温めて待っていてくれる温かい家族ができたから。

『雪を待つ』

12/14/2023, 3:55:27 AM

 “愛を注ぐ”という言葉が最近のわたしのお気に入り。
 お水を注ぐみたいに愛情をたっぷりかけるのって素敵じゃない? だからお水はたっぷり。わたしの育てたお花は……ダメになってしまった。
「どうして? お水をちゃんとあげたのに!」
「根腐れしてるな。根が水に溺れた状態になって、呼吸ができなくて死んでしまったんだ」
「お水のやりすぎで、溺れちゃったの?」
「水のやり方にはめりはりが必要なんだ。土がしっかり乾いてから、水をたっぷりやる。まだ土が乾かないうちに水をどんどんあげてしまったら、根が窒息してしまう」
「そんなぁ」
「溺れるほどの量は毒にもなる。甘やかすばかりじゃ成長しないんだ。時には厳しく接するのも愛だよ」

『愛を注いで』

12/12/2023, 1:54:24 AM

 パパは悲しいことがあっても何でもないフリをする。
 だからわたしも気づかないフリ。
 だけど、放っておけないから、いつもよりちょっと優しくしてあげる。
「わたしのチョコレート、パパにあげるね」
「どうしたんだい? 君の大好物なのに」
「甘いものは疲れが取れるのよ」
「そうだな……」
 パパは何かに気づいたみたいにふふっと笑うと、チョコレートをぱくりと食べた。
「大丈夫、もう元気になったよ」
 わたしの気づかないフリは、まだまだ特訓の余地があるみたい。

『何でもないフリ』

12/10/2023, 1:20:58 PM

「ベルナルドは、王様ね」
 わたしは猫のベルナルドをふわふわのクッションに座らせる。
「ルカは、わたしの仲間よ。ふたりで力を合わせて王様のために宝を取りに行くの」
「あい!」
 2歳のルカは元気よく返事をする。たぶんわたしの言ってることはほとんどわかってないと思うけれど、名前を呼ばれると元気よく返事をするの。
「いざ! キッチン城へお宝を取りに!」

 キッチン城の魔王の目を盗んでお宝を手に入れるぞ! と意気込んでいたのに、残念ながら見つかってしまった。
 魔王のパパは、わたしが仲間を募ってつまみぐいをしようとした首謀者だからって「皿洗いの刑」にしたのよ! ひどい!

『仲間』

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