パパは何かに興味を持つと、眠れないほど夢中になってしまう。
それだけ集中できることがあるってすごいなって思いながら、わたしはパパの健康が心配になる。
「パパ、そろそろ寝る時間よ」
「うーん……」
生返事をするだけで、パパは動かない。
「パパったら!」
「うん、うん」
本に夢中で、全然こっちを見てくれない。
「くしゅん!」
お風呂上りのわたしは、ちょっと湯冷めしちゃったみたい。
「寒いのかい?」
パパが慌ててこっちを見てくる。
「お布団であったまろうよ」
「そうだな」
パパが一番夢中なのは、きっとわたしよね。
『眠れないほど』
あなたからの最後の手紙に、さよならは書いてなかった。
だから私も、さよならと書かなかった。
さよならは言わないで良かった。
だってまた再会できたから。
『さよならは言わないで』
光と闇の狭間で聞くその音は、ひどくやさしい。
たゆたうような闇の中、じんわりと光がさしてくる。
おはよう、おはよう
ゆりかごにゆられるようなやわらかな振動。
「そろそろ起きないと、朝ご飯は抜きになるぞ」
ぱっと飛び起きると、してやったりと満面の笑みのパパがいた。
『光と闇の狭間で』
最初の頃は遠巻きに見られてた。
いつの間にか、そばにいるようになった。
気付いたら身体の一か所をくっつけてるようになった。
今はわたしに背を預けてる。
猫は言葉にできないから、距離で気持ちを示すのね。
『距離』
「心配ないよ。大丈夫」
怖い夢を見た。なんだったか覚えていないけれど、怖い夢だった。
わたしの目からぽろぽろと涙が流れる。もう8歳のお姉さんなのに、赤ちゃんみたいにわんわん泣いてる。
「大丈夫、パパがそばにいるよ。泣かないで」
子守歌みたいな優しい声が、頭をなでる手と一緒に全身をやさしく包んでくれる。
ベッドに腰かけたパパにぎゅっと抱き着いてると、落ち着いてくる。
「一緒に寝ようか」
「わたしはもうお姉さんだから、親と一緒には寝ないの」
「じゃあ今日だけ、パパは君の弟になろうかな」
「弟なら一緒に寝てあげてもいい」
素直に一緒に寝てって言えないわたしに、パパは笑って布団をかけてくれた。
『泣かないで』