【お題:別れ際に】
29日は中秋の名月
夜空を見上げる人も
きっと多いだろう
月に神秘を感じるのは
世界共通だろうが
日本では 月に
うさぎがいて餅をついたり
美女が帰っていったりと
なかなか楽しい
竹取物語の魅力は
かぐや姫を取り巻く人たちの
人間臭さにも、あると思う
欲望、ズルさ、浅ましさ
が描かれるが
それらを含め
人間らしさを 否定したくないな、
と 思わされるのも
面白いところだろう
かぐや姫が 月への帰り際
不死の薬を残していくが
帝は 彼女がいない今、
不死に 何の意味があるのか
と、それを焼いてしまう
権力者にとっての
不死の薬とは
喉から手が出るほど
欲しいものだろうと思うが
この帝にとっては
そうではないのだ
当時は 帝の地位や
それに準じる立場を手にいれようと
人間の欲望が渦巻いたことと思うが
その頂点にたっている帝本人は
ここで 永遠の地位、生命を選ばない
かぐや姫の帰ってしまった月に
少しでも近い場所を、と望み
日本一 高い山で
欲望の象徴、不死の薬を
焼かせるのだ
上流社会に渦巻く欲望に
作者が皮肉をこめ
物語の中では 権力のトップに
そう行動させたのかもしれないが
かぐや姫が別れ際にとった
行動や言動も相まって
今は金持ちとなった育ての親含め
本当に大切な存在に
出会えた人にとって
地位や金や名誉などは
大事な人の存在に比べれば
取るに足らないものだろうと
心から思わされる
金や地位よりも
その人こそを選んでしまう
それもまた、人間臭さ
人間らしさなのではないか
【お題:通り雨】
日本には
雨の呼び名が多いという
霧雨 春雨 五月雨 、
変わったものでは
遣らずの雨 だろうが
この雨は 私も体験したことがある
祖父の法要を終え
精進落しの料理を
皆が食べ終えたときのことだ
参列くださった男性が
あまり長居しても、
と私たちを気遣った様子で
では そろそろ と
席を立ったそのとき
晴れ空が急に
雨になったのである
男性は驚きながらも
すぐに
ああ、ゆっくりしていけ
ということだな
と、にこやかに話し
腰を降ろされた
そして
酒好きだった祖父のため
周囲に酒を注ぎ
ご自身でも改めて
召し上がったのだった
雨は瞬く間にあがり
空は晴れわたっていた
その後、何年もたってから
人を引き留めるかのように降る雨に
ちゃんと呼び名があることを知り
なんだか感慨深かったのを
今でも覚えている
水木しげる「円い輪の世界」
あの世とこの世では
時間が流れる速度が違う、
と聞いたことがある
登場人物の
幼くして亡くなった妹と、
その兄
この二人の接触を見ていると
時間の速度も違うし
そもそも
この世の尺度を
死後の世界に
当てはめられるのか
とも思う
取り巻く環境のルールが
それぞれで
根本的に違っていそうなのである
かといって
そこを突きつめる必要は
ないのだろう
水木しげるが
次のようなことを言っていた
木だって何百年という歳月を生きる
この世、この宇宙には
何百年と生きて 初めて
わかることがある
それに比べ
人間が生きられるのは
たかだか100年
わかりっこないんですよ
身に染み入る、
妖怪からのありがたい御言葉である
【お題:形の無いもの】
物価高の今、衣食住
もの は大事で
ものがなければ
生きられないと実感する
でも、
王子さまは
本当に大切なものは目に見えない
と言った
聖★おにいさん風に言えば
いぇっさ は
人はパンのみにて 生くるにあらず
と言った
マリラはアンに
容姿より もっと大事なものがある
と言った
しかし アンのように
とくに若い頃は
物や見た目は
非常に大事なのだった
手で触れ、目を向ければ
すぐ 存在を確認できるような
簡単に その魅力に触れられるものには
心を動かされやすい
一方、形の無いものは
かたちがないから
簡単には わからず
肉体や感性や時間を
フルに使ってようやく
育ったり、つかめたり
感じられたりすることも多い
人間生活も長くなると
なぜだか知らないが
お金を出せば手に入るような
物理的なものだけでは
心の満足や慰めが
得られないことが増えてくる
楽しいことだけでなく
辛いことや苦しいことも
数多く経験し
心も一筋縄では
いかなくなるからだろうか
右と左、
形のあるもの 形の無いもの
この両方で私たちはできている
2つの間を揺れつづけ
今日も私は
物価高のスーパーへ
出かけることにする
【お題:ジャングルジム】
「ショッーク!」
関根勤 扮する少年が
そう叫んで始まる
明石家さんまとのトークコーナー
疑問に感じたテレビ内容に
クレームをつける
という設定から
「クレーマー クレーマー」
のコーナー名だった
関根さんの
ぬるっと侵食
ガツンとKO、みたいな
おかしみを
映画「クレイマー、クレイマー」
のテーマ曲と
メインキャストの親子を模した、
馬鹿げたセッティング(誉め言葉)
が まさに倍増させていた
映画「クレイマー、クレイマー」
ハウスがあってもホームがない
建物はあっても居場所はない
そういうことは
往々にして あると思う
夫婦、
Mrs.クレイマーと
Mr.クレイマーは
親権を争うことになり
息子との暮らしを
手に入れるため
裁判は地獄のような
様相となる
ジャングルジムでの
怪我を持ち出され
判決は一方に形勢が傾いていく
私たちは
運よく居場所を見つけて
そこで初めて
自分が以前いた場所は
ホームじゃなかったと
気づくこともあるだろう
逆に、
幸せな場所に
することもできたのだ
と感じながら
そこを去らなければならないこともあると思う
時間は巻き戻せず、
時すでに遅し
ということが世の中にはある
そんな思いを したくないし、
あなたにも して欲しくないと思う
【お題:声が聞こえる】
声が聞こえていたのに
聞こえていないも同然だった
そんな魔がさしたような瞬間が
生きている間に 何度か
人には あると思う
手塚治虫の「火の鳥 鳳凰編」
生まれ落ちてから
孤独と不運の境遇を
負わされたかのような我王
やがて そんな彼に
温かく寄り添う存在ができるが
我王にも
その逢魔が時は やってくる
私たち人間は 悪いことに
真に自分を
思ってくれている人の言葉よりも
思惑を持って
近づいてきた人の言葉の方に
飛びついてしまうことがある
激しい動揺は 冷静さを失わせ
猜疑心と怒り、
悪魔のような衝動を生みやすい
そんな経験があるのは
きっと私だけではないだろう