【お題:通り雨】
日本には
雨の呼び名が多いという
霧雨 春雨 五月雨 、
変わったものでは
遣らずの雨 だろうが
この雨は 私も体験したことがある
祖父の法要を終え
精進落しの料理を
皆が食べ終えたときのことだ
参列くださった男性が
あまり長居しても、
と私たちを気遣った様子で
では そろそろ と
席を立ったそのとき
晴れ空が急に
雨になったのである
男性は驚きながらも
すぐに
ああ、ゆっくりしていけ
ということだな
と、にこやかに話し
腰を降ろされた
そして
酒好きだった祖父のため
周囲に酒を注ぎ
ご自身でも改めて
召し上がったのだった
雨は瞬く間にあがり
空は晴れわたっていた
その後、何年もたってから
人を引き留めるかのように降る雨に
ちゃんと呼び名があることを知り
なんだか感慨深かったのを
今でも覚えている
水木しげる「円い輪の世界」
あの世とこの世では
時間が流れる速度が違う、
と聞いたことがある
登場人物の
幼くして亡くなった妹と、
その兄
この二人の接触を見ていると
時間の速度も違うし
そもそも
この世の尺度を
死後の世界に
当てはめられるのか
とも思う
取り巻く環境のルールが
それぞれで
根本的に違っていそうなのである
かといって
そこを突きつめる必要は
ないのだろう
水木しげるが
次のようなことを言っていた
木だって何百年という歳月を生きる
この世、この宇宙には
何百年と生きて 初めて
わかることがある
それに比べ
人間が生きられるのは
たかだか100年
わかりっこないんですよ
身に染み入る、
妖怪からのありがたい御言葉である
【お題:形の無いもの】
物価高の今、衣食住
もの は大事で
ものがなければ
生きられないと実感する
でも、
王子さまは
本当に大切なものは目に見えない
と言った
聖★おにいさん風に言えば
いぇっさ は
人はパンのみにて 生くるにあらず
と言った
マリラはアンに
容姿より もっと大事なものがある
と言った
しかし アンのように
とくに若い頃は
物や見た目は
非常に大事なのだった
手で触れ、目を向ければ
すぐ 存在を確認できるような
簡単に その魅力に触れられるものには
心を動かされやすい
一方、形の無いものは
かたちがないから
簡単には わからず
肉体や感性や時間を
フルに使ってようやく
育ったり、つかめたり
感じられたりすることも多い
人間生活も長くなると
なぜだか知らないが
お金を出せば手に入るような
物理的なものだけでは
心の満足や慰めが
得られないことが増えてくる
楽しいことだけでなく
辛いことや苦しいことも
数多く経験し
心も一筋縄では
いかなくなるからだろうか
右と左、
形のあるもの 形の無いもの
この両方で私たちはできている
2つの間を揺れつづけ
今日も私は
物価高のスーパーへ
出かけることにする
【お題:ジャングルジム】
「ショッーク!」
関根勤 扮する少年が
そう叫んで始まる
明石家さんまとのトークコーナー
疑問に感じたテレビ内容に
クレームをつける
という設定から
「クレーマー クレーマー」
のコーナー名だった
関根さんの
ぬるっと侵食
ガツンとKO、みたいな
おかしみを
映画「クレイマー、クレイマー」
のテーマ曲と
メインキャストの親子を模した、
馬鹿げたセッティング(誉め言葉)
が まさに倍増させていた
映画「クレイマー、クレイマー」
ハウスがあってもホームがない
建物はあっても居場所はない
そういうことは
往々にして あると思う
夫婦、
Mrs.クレイマーと
Mr.クレイマーは
親権を争うことになり
息子との暮らしを
手に入れるため
裁判は地獄のような
様相となる
ジャングルジムでの
怪我を持ち出され
判決は一方に形勢が傾いていく
私たちは
運よく居場所を見つけて
そこで初めて
自分が以前いた場所は
ホームじゃなかったと
気づくこともあるだろう
逆に、
幸せな場所に
することもできたのだ
と感じながら
そこを去らなければならないこともあると思う
時間は巻き戻せず、
時すでに遅し
ということが世の中にはある
そんな思いを したくないし、
あなたにも して欲しくないと思う
【お題:声が聞こえる】
声が聞こえていたのに
聞こえていないも同然だった
そんな魔がさしたような瞬間が
生きている間に 何度か
人には あると思う
手塚治虫の「火の鳥 鳳凰編」
生まれ落ちてから
孤独と不運の境遇を
負わされたかのような我王
やがて そんな彼に
温かく寄り添う存在ができるが
我王にも
その逢魔が時は やってくる
私たち人間は 悪いことに
真に自分を
思ってくれている人の言葉よりも
思惑を持って
近づいてきた人の言葉の方に
飛びついてしまうことがある
激しい動揺は 冷静さを失わせ
猜疑心と怒り、
悪魔のような衝動を生みやすい
そんな経験があるのは
きっと私だけではないだろう
【お題:秋恋】
自分へのフィードバックを
求めがちなのが 恋
銀魂のお妙が
スナックの客に
「私なら ケ〇毛ごと愛する」
と言ったのが愛なら、
〇ツ毛を見て
一気に冷める可能性があるのが
恋かもしれないし
相手を見てるようで
見てなくても
成立の余地がありそうなのが恋ならば
相手を見ないと
成立しないのが愛かもしれない
映画「蒲田行進曲」で
兄貴分の元オンナ、
有名女優を
押し付けられた
大部屋俳優のヤス
当初は鼻の下 伸ばし気味の
恋モードなのだが
映画終盤、
彼が部屋を壊しまくる姿は
なんというか
胸に迫るものがあった
それは
ヤスの恋が
恋じゃない何かに変容したのが、
こちらに痛いほど伝わるからだろう
自分に対する 彼女の行動と、
兄貴分に対する 彼女の行動
その違いが
いまはどこから来るのか
ヤスはそこに 思い至らないから
身を切られるほどに苦しいのだろう
しかし また
ひるがえって、、、
人の心は
簡単に割りきれないのも
周知の事実で
愛の近くに身を置きながら
恋に足をとられることも
世の常、人の常でしょう
ほんとに 人の心とは
複雑怪奇なのである