かつて私の故郷であった街への道は、遠の昔に荒れ果てて風化していた。
「寒々しいことだ」
荒れ地となったこの大地の片隅に、ひっそりと残されたこの地には、未だ緑が来た事は無い。
どれだけの時が、この街が滅びてから流れたのだろうか。私の記憶からも、かつてあった騒がしい喧騒は、たしか、ということだけしか思い出せないほど、遠くに消えてしまっていた。
「虚しいことだ」
もはや誰も歩かなくなった街道の石畳は、否、石畳らしきものが、ぽつりぽつりと飛び石のように並ぶほど荒れ果てていた。
それでも、なお石畳には黒々としたシミが残っていた
「悲しいことだ」
暗黒時代と呼ばれた勇者伝説の舞台となった、最後の決戦の地としての名残とも言える、見上げるほどの城壁は、かつて、私も自ら岩を積み上げ、して作り上げたのは黒き巌嶺と呼ばれるほどのものだった。
そう記憶している。
けれど、その役目を全て壊すように大穴が開けられて、小さな瓦礫の山を残すばかりになっていた。
そうして、城壁を超えた先には、いまだに残り続ける青き勇者の旗が、荒野にはためいていた。
「これをあなたが見たら、なんと言うのでしょうか」
安心と不安という言葉は、一見すると相反する言葉のように見える。
ところが、意外とそうでもないと思ったりもする。
とは私の持論だ。
その理由は恋愛。
こと恋愛においてでは、両立するように思える。
例えば、
この人と、なんて一緒にいることで芽生える安心。
この人は今何を思っているのだろうと言う不安。
こんな風に恋愛なら、きっと両立すると思うのだ。
美しいと思うものを見た。
異世界だからこそ、見れる様な景色。
まるで海を下から眺めるような。
「どうして」
どうして、君が。そんな言葉が溢れた。
目の前で血飛沫を上げて倒れたのは、他ならない己の恋人だったもの。
暗闇だと言うのに、ほんの一瞬の銃口の光が写した。
その瞬間、引き金の先にいたのが誰だか分かってしまった。
ワンピースが似合う素朴な……弾丸が飛び交うような戦場には到底、似つかわしくない柔な人だった。
だと言うのに、何故自分が追っている敵と同じ服を着ているのだ。
いや、分かっているだろう?
そんな声が聞こえる。
突きつけられる様に、はっきりと理解する。
ああ、そうか。
君も同じ、裏切り者だったんだ。
僕がスパイだった様に。
だからこそ、言い聞かせよう。
「どうして、か。どうしても、だから」
君を守れると思っていた、任務には、どうして、だけが木霊した。