「正直」
高校生の時、学校の帰り道、河川敷に座って私達は話をしていた。
「正直言って、私はあなたの事が大嫌いだよ」
突然、君はそんな事を言ったから、私は驚いて目を丸くした。
「なんで?」
「あなたは、私の大嫌いな人に似ているもの」
「そっか。それは悲しい」
私は下を向いた。
「でも、あなたは悪くないから、謝っておく。ごめんなさい」
「ああー。言いたい事を言えてスッキリした」
「あなたは、私の事をどう思っている?」
「正直で嘘を付けない。そして言いたい事は、ハッキリ言える人」
「そう。意外と高評価で驚いた」
「あなた、自分の考えを人に押し付けてはいけないわ。私の祖母のようになってしまうわよ」
「もしかして、君の大嫌いな人って?」
「私の祖母」
ボソッと言った。
「そっか。忠告ありがとう」
「別に」
君はそっぽを向いた。
「クラスに馴染めない者同士、仲良くなれそうな気がする」
「私とあなたが?私はあなたの事、大嫌いなのに?」
私は頷いた。
「君がそばにいてくれると、私は、自分の考えを相手に押し付けないようする事が出来そうだから」
「そう。私も話し相手が欲しかったから。別にいいけど」
「やった!高校生になってから初めての友達だ」と私は思わず言った。
「私もそうだけど。そんなに喜ぶもの?」
「うん!」
それから、私達の関係は社会人になっても続いていて、今は、ルームシェアをして一緒に暮らしている。
「ふふっ」とリビングで椅子に座って私は1人笑っていた。
ドアを開ける音がした。君が帰ってきたのだ。
「おかえり!」
「ただいま」
「何を見ているの?」
「私の日記」
君は私の隣に座って日記を覗きこんだ。
「ふーん。いつの時の?」
「高校生の時。君と私が友達になった時の」
「そう。懐かしいな」
「うん」
「高校生の時から私、自分の考えを相手に押し付ける事がなくなって、相手の気持ちを考える事が出来るようになったよ」
「そう。それは良かった。誰のおかげかな」
「君のおかげだよ。ありがとう。これからもよろしくね」
「こちらこそよろしく」
二人共、笑っていた。
「君は丸くなったよね」
「ああ。たぶん祖母が亡くなってから解放されたからじゃないかな。結局、最後までわかり合えないままだったけど」
「そっか。君のいいところは、変わらないよね。正直で嘘をつけない。物事をハッキリ言うところとか」
「それは、あなたがそれは君のいいところだから大事にしてって言ってくれたからだよ」
「えっ?そんな事あった?」
「うん。私もいつの間にか、あなたに支えられていたんだ」
「そう」
「あっ!そうだ。あなたの好きなクッキーが売っていたから、買った。一緒に食べよう」
「わぁ!ありがとう!うん!食べよう」
これからも私達の関係は続いていくといいなと私は思った。
「梅雨」
ついに、梅雨の時期がきた。ジメジメと蒸し暑いから嫌な時期だ。外では雨が降っている。
「早く梅雨明けしないかな」
外を見ながら私は言った。
「そうだね。僕は雨が上がった後、虹が見れると嬉しくなるよ」
本を読んでいた彼が顔を上げて言った。
「私もそうだよ!ラッキーと思う」
空に虹が架かるという想像を頭に浮かべながら私は嬉しくなった。
「嬉しそうだね。君と虹が見れるといいな」
彼がニコニコしながら言った。
「うん!」
私は彼と話をして、梅雨の時期も悪くないかもしれないと思った。
「無垢」
「君は無垢な人だ。僕はそんな君が好きだよ。
そのままの君でいてほしいな」
僕は、君に伝えた。君は照れて笑っていた。
「終わりなき旅」
昼休み。コーヒー缶とサンドイッチを持ち、休憩室へ向かう。
休憩室に入りいつもの席の椅子に座って、サンドイッチを食べながら僕は仕事ができず、落ち込んで自己嫌悪に陥っていた。
だけどクヨクヨしていても状況が変わるわけがない。
「ここで終われるわけがない。もう少し頑張ろう」
独り言が口に出ていた。
独り言を誰かに聞かれていたら恥ずかしいと思い、ハッとした。
辺りを見回したが、人はまだいなかった。
サンドイッチを食べ終わり、コーヒー缶を飲み干した。
コーヒー缶をゴミ箱に捨てた時、僕のネガティブな気持ちも一緒に捨てたような気がした。
さぁ、僕の終わりなき旅、人生はここからまた始まるんだ。と思いながら、休憩室を後にした。
「ごめんね」
私と友達はささいな事で喧嘩してしまった。いつもなら、すぐに仲直りするが、なかなか謝る事が出来ず、長引いてしまっている。
友達が、今日は風邪で大学を休んだ。授業のプリントを届ける事とごめんねと伝えるため、友達の家へ行く事にした。
ピンポーンとインターホンが鳴り、ドアが開いた。友達が出てきた。
「ゴホッゴホッ。今親が、買い物に出かけていて私、1人なんだ。今日は、何の用事かな?」
「今日、君、大学を休んだから授業のプリントを届けにきたんだ」
「そう。中に入って」
「うん。お邪魔します」
2階の友達の部屋に入り、机をはさんで座る。
「はい。これ。授業のプリント」
「ありがとう。ゴホッ。風邪をうつしたら悪いから早く帰って」
「いや。私、君に謝りたいから家に来たんだ」
深呼吸をし、君の顔を真っ直ぐに見て言った。
「この間はごめんね。君の気持ちを考えないまま、自分の気持ちを押し付けてしまった」
すると、友達は目をそらして言った。
「あんまり、真っ直ぐ見ないでほしい。なんか照れる。ゴホッ。いや、私の方こそ、あんな言い方をして君を傷つけた。ごめんね。仲直りしたいな」
「うん!」
「あっ、そうだ。お見舞いにぶどうのゼリーを買ってきたよ」
私はリュックからゼリーを取り出した。
「ありがとう」
「早く風邪が治るといいね」
友達は頷いた。
「じゃあまたね!」
「じゃあまた!」
私は友達の家を後にした。帰り道に「ごめんね」と謝る勇気も必要なんだなと思った。
後日、友達は元気になった。今は、一緒に授業を受けて、課題のレポートを書いたり、弁当を食べたり、大変だけど楽しい日々を過ごしている。私はこの友達との関係がこの先も続くといいなと思っている。