名残惜しさを言葉に込める。
無事に今日を終えれるように。
変わらず明日が始まるように。
手を振りながら、はにかみながら。
それはまるで祈りにも似て。
君と紡ぐ日々こそが、僕が生きる世界だから。
短い言葉にささやかなる願いを込めて。
今日も君と約束を結ぶ。
【またね】
その結末に惹かれていた。
満ち足りた幸福とは程遠い。痛みを伴う激しい愛にあなたは殉じた。
あなたのようになりたいの。
海に消える真白は彼女の心。
愛する人のためにすべてを擲つ純真。
あなたのようになりたいの。
大きな海に抱かれて消える。
その結末はあまりに尊く。
ねえ、アンデルセン。
これは罰かしら。
歪んだわたしは、どうしても自分を大切にしてしまうから。
逆巻く波に身を投げたって、結局最後は炎の中。鈍色の灰にしかなれやしない。
憧れはいつだって御伽噺。
あなたのように、真白に消えたい。
【泡になりたい】
一足先に夏が終わった。
必死に勝利を目指し、走り続けた二年半。
苦手な早起きにも慣れて、ぶかぶかだった制服はこんなにも小さくなって。
君の努力をわたしは見てきた。
誰もいなくなったグラウンド。
日が沈んでも、君はずっと見つめている。
焼けた目じりに残る、悔しさのあと。
未だ冷めやらぬ熱をこらえる君の代わりに、飲みかけのコーラから雫が滴った。
【ぬるい炭酸と無口な君】
砂漠のように乾いていた。
煩わしい日常に足をとられ、理不尽は容赦なく照り付ける。
あたりを見回せど、同じ景色が続くだけ。
果て無く続く地獄を前に、何もかも諦めてしまいたかった。
けれど。
見つけてしまった。出会ってしまった。
わたしだけのオアシス。
ステージの上に立つあなた。きらきら。乾いた心を満たしていく。
私の世界にともった、消えない彩り。何にも代えがたいそれが、生きる理由になっていく。
世界の灼熱もこわくない。
その輝きを追いかけていくために――わたしの鼓動は脈を打つ。
【熱い鼓動】
住宅地、十字路、息をひそめて時を待つ。
朝7時27分。
曲がり角の向こうから、もうすぐ君がやってくる。
ここ数週間張り込んだ成果。
君の朝のルーティンも、しっかりばっちり把握済み。
ランニングを終え、朝ご飯を食べて。規則正しく、美しく。
前髪OK。スカート丈も理想の長さ。
身だしなみは完璧に。360度どこから見ても、君の好みのど真ん中。
高鳴る心臓のカウントダウン。
1,2,3――さあ、恋を始めよう。
【タイミング】